LOVE ME DO!
□LOVE ME DO!
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──────ガチャ
スタイリッシュで最高にお洒落で彼にピッタリな部屋のドアを開ける。
今日も大好きなあの人に会いに来た。
でも、真っ先に飛び込んで来るのは別の顔。
ああ…なんでコイツが一発目なんだよ…。
なんて愚痴っても始まらない。
あたしは透に会いに来たのだ。
あたしには透の思い描く世界には入って行くつもりはないし、その世界を邪魔するつもりもサラサラない。
ただ会ってその顔を眺めているだけでも十分なのだ、けれどこうやって、あたしがここに来た時くらい二人きりで甘い時間を過ごしてみたいなぁ…。
今、あたしの前を塞いでいるこの人はアシスタントの中井さん。
見る度にピザばっか食べてるこの人は、あたしが透に会う前に視界に入っては邪魔をする。
「やあ、仁衣那ちゃん。また来たんだね」
油がたっぷり浮いた下心が丸見えの顔でニコニコと笑って、まあ確かに優しくしてはくれるけど、あたしはデブ専ではない、寧ろ逆。
苦笑いしながら一歩後退りする。
うぅ…臭っ!
…男臭が鼻をつく。
「こんにちは、中井さん。透は?」
「僕に会いに来てくれたんじゃないんだ?七峰くんなら自室に居るけど…。そんなことより、一緒にピザ食べないかい?」
は?そんなこと?
あたしにしてみれば今日一のスペシャルイベントなんですけど?
それにしても話してる間中もピザを離さない彼の作法は頂けないものがある。
もっとスマートに熟せないものか。
まあ、そんなことを中井さんに求めでも意味のないことだけれど。
「いいえ、結構でーす。あたしは透に会いに来たんだもんっ」
あたしの言葉にムスッと顔を歪めては大きな溜息を一つ。
「仁衣那ちゃんも懲りない子だね。七峰くんに会っても邪険にされるだけじゃないか」
まあ、確かに。
透は一度だってあたしを受け入れてはくれないのだけど。
「そんなの────気にしてないもんっ」
とびっきりの笑顔を見せると中井さんの顔がフニャリと緩んで赤くなる。
「僕なら絶対、仁衣那ちゃんを可愛がってあげられるのになぁ…///」
そんなことを呟いていたけど、そこはフル無視。
──────トントン
透の自室のドアを軽快なリズムでノックする。
程なくして扉が開かれて大好きな彼がヒョイッと顔を出したかと思えば、あたしを見て瞬時に顔を歪める。
ウザイってハッキリと書いてある、その顔だってあたしは大好きなのだ。
「またですか。…帰ってください」
その冷ややかな言葉に怯むことなく、あたしはニンマリ笑顔を見せる。
「ヤダ!今、来たばっかだもーん」
「ハァー、僕はあなたと違って忙しいんですよねぇ」
イライラをマックスにさせながらドアを閉めようとする透を制して、思いっきりその細い体にダイブする。
「ヤダー!ねぇー、ちょっとだけー!ね?お願ーいっ!!」
ウルウルの瞳で言うと透はいつだって『勝手にすれば』と言う。
透はそんなに非道じゃない。
あたしはそう思っている。
邪険にしながらも駄々っ子のあたしを受け入れてくれるんだから。
「ねぇー、透ー。好きー」
「……」
フル無視された。
まあ、そんなのいつものこと。
「好き好き好きーっ!」
パソコンに向かって座ってる透の後ろから腕を絡めて抱きつく。
「ウゼェ…」
悪態を吐くけれどあたしの腕を振り払うこともしないでいてくれる。
振り払うのもウザい…そんなの分かってるよ?
だから、あたしは耳元に唇を近付けてチュッとリップ音を立てて、透の甘い香水の匂いを吸い込む。
ああ…幸せ。
「あのねぇ…僕、追われるより追いたいタイプなんですよねぇ…」
ボソリと呟いてはクルリと椅子を反転させて、あたしを思いっきり冷めた目でマジマジと見つめる。
あたしもその顔をマジマジと見つめ返す。
「きゃんっ///透、ス・テ・キっ///」
「……ハァー、本当に人の話を聞かない人ですねぇ」
聞いてるよ?
透の言葉は一言も取りこぼさず聞いてるんだけど。
それは受け入れたくない事実だから聞いてない振りしてるだけ。
いつかはあたしが居ないと寂しくなるように。
いつかはあたしだけを見てくれるように。
いつかはあたしを愛してくれるように。
ニッコリ透を見つめて、不意を付いてチュッとキスをした。
「っ!!??──────マジ、ウゼェ…」
透は手の甲でゴシゴシと口を拭って背を向けてしまったけど、それでも今日も最高に大好き。
そして、明日も明後日も──────。
目指すはあなたのオンリーワン。
─END─
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