LOVE ME DO!

□不毛なループを脱出しろ!
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いきなりだが、あたしは決してドMではない。





言いなりになるのなんて癪だし、言葉の暴力なんて当然腹立つし、当たり前に傷付く。

寧ろあたしは人一倍傷付きやすい硝子のハートの持ち主だと認識している。

『No.』とハッキリ言えないのは面倒なことに巻き込まれるのが嫌なだけ。

何にでも『Yes.』と言ってしまうのはただ楽な方を選んでるから。


だけど、このどうしようもない性根の腐った自分の性質に苛立ちを感じているのも確か。




事あるごとに上から物を言うこの男、七峰透はあたしの彼氏。


あたしは何でこんなダメンズの筆頭のようなコイツを好きになってしまったのだろうか。


もっとあたしを大切にしてくれる男性だって星の数ほど居るだろうに…あたしは彼を愛してる。




─────そして今日も。


いきなり電話で呼び出されたかと思えば、あたしを執拗に扱き使ってはニマニマ笑う。


透はマンガで行き詰まると決まってあたしを呼び付けて、愚痴を零すことも弱音を吐くことすらないものの、あたしをストレスの捌け口にする。


それは彼があたしを頼って、甘えているのだと理解しているし、それが不器用な彼なりの愛情表現なのだと分かっている。


だからこそ、今までだって彼のワガママを許してきたのだし、彼の恋人というポジションに居るのがあたしなのだから、求められる限りは何かと容認してきたし、それが彼氏として、彼女としての特権だと思ってきた。

彼からすればあたしは唯一の存在なのだから。

そう言い聞かせてきた。



「仁衣那ちゃーん。お腹すきました、なんか作ってください」

「冷蔵庫に何にもないよ?」

「じゃあ、お金渡しますから買ってきてください」

「…うん」


買い物から帰ってきたかと思えば、

「仁衣那ちゃーん。喉乾きました」

「なに飲みたいの?」

「濃ーいエスプレッソ淹れてください」

「分かった」


食事を作って、据え膳な持て成しの後には、

「仁衣那ちゃーん。肩凝りました、揉んでください」

「…はい」

日中、頭をフル回転させて机に向かっていただろう、疲れた凝りを解してあげて。


「仁衣那ちゃーん。そろそろお風呂入るんで準備してください。あっ、お風呂上りの準備も忘れないでくださいねー」

「……」


何度となく繰り返される命令じみたその言葉たち。




あたし、なんの為にココに居るんだっけ?


ふと浮かぶ疑問符。


それはあたしが彼の恋人だから──────?


自問自答を何度も繰り返してみる。


彼は業とあたしを苛立たせているのか。

それともただの素なのか。

ううん、どれも違う。



そんなの端から知ってるさ。



だけど、あたしはアンタの道具じゃない。




思いの末にはあたしの我慢のピークが直ぐそこまでやって来ていて…。




「あれ?返事聞こえないんですけど」

「…んー、はいはい」

「今、二回言いましたよねぇ?」


ムスッとした表情であたしを睨んでは、苛立ちを見せ付ける。

イライラするのはお門違いだろう。

寧ろ苛つくのはあたしであってアンタではない。

あたしは感謝すらされど、些細な言葉の揚げ足を取られる筋合いなんて全く持って無いはずだ。


生まれてから甘やかされて育ったせいか、金持ちの御曹司だから何でもかんでも手に入って、何でもかんでも許されてきたアンタには人の繊細な気持ちなど分からないのだろう。

どうして彼の両親は、彼に人間らしい感情を教えてあげなかったんだろう?

物さえ与えてればニコニコ笑うのは人間の性だけれど、それ以前に大切なことが沢山あるというのに。

だから世の中、金さえあればどうとでもなるなどと言うのだろう。


勿論、あたしも論外ではなくお金は命の次に大事だと思っている。

お金があれば好きなものを買って好きな部屋で暮らして好きな所にも行けて美味しい物をお腹いっぱい食べて…そして笑顔と幸福に溢れた快適な生活を送れるんだって思う。

けれど、それはそこに深い愛があって心が通い合っているという前提があってこそなのだ。



「えー?そう?」

嫌味たっぷりの笑顔でニッコリと笑ってやった。

あたしの気持ちなんてこれっぽっちも理解してないアンタに、今のこの表情の根本が伝わるとは思っていないけれど。


この状況で『ごめんね』と謝っていたとしても、今のようにはぐらかしても、結果は同じだっただろう。

もうこうなってしまえば透の機嫌はなかなか直らないのも分かっている。


だけど、あたしだって人間だ。

喜怒哀楽があって当然なのだ。

こんなの彼女じゃなく、ただの召使か家政婦じゃないか。

だったら正式に雇われて給料を貰って働く方がよっぽど気持ちも楽だろうに。


「言いましたけど?…ハァー、自分で言ったことも覚えてないなんて仁衣那ちゃんってただの馬鹿ですか」

「はい?皮肉のつもりで言ったんだけど通じなかった?ぷぷっ。そんなことも通じないくらいアンタも馬鹿だったんだねー。ごめん、ごめん。今度からはハッキリ分かるように言ってあげるわ」



喧嘩になるのは目に見えていたのだけれど。



なのに、一度開いてしまったあたしは口は止まってはくれない。



これじゃ、あたしもただのガキだ。


だけど、もう我慢なんてしてやんない。


否、もう出来ないのだ。



ねえ…あたしの気持ちはどうなるの?


自分の思い通りになるなら、あたしの気持ちは必要ないの?



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