灰色の空

□子供を拾いました
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あめ、アメ、雨。




一週間連続の雨。
日本は今梅雨の季節。雨が一つ一つ落ちるたびに、足元にキレイな波紋を作り、騒音に近い雨の音は、声や車の走る音を妨げる



仕事帰り、今日はたまたま外に赴かなければならない仕事だったため、朝方、傘を片手に外へ出た。
その時はまだここまで雨足は強くなかった気がする。
聴覚がまるで意味を成さない程の音を立てて降るくらいなのだから、注意報か、もしくは警報が出ているかもしれない。





小中高そして四年前に大学を卒業し、社会人の仲間入りを果たした。
現在は、結構有名な小説家。こないだ書いた小説は五十万部を売り上げるベストセラーとなった

初めは、自分に物語を綴る才能があったなんて思いもよらなかった。

大学生時代、友人に勧められて書いた、俺の高校卒業までを綴った小説は、学校中で話題となり大反響を及ぼし、それがとある出版社の人の目に止まり「本にしてみないか」なんて言われた事もあった。

まぁその時は断ったんだけど

なんでかっていわれたらそりゃ、自分の過去の話を本に、なんて恥ずかしいにも程がある

今は、やってみようかなとか思ったり、でもやっぱり過去は公になんてしたくないし、なんて葛藤が続いている




 強い強い雨が傘を叩いて、少しずつ雨が足元を濡らしている

雨はさっきより少し、本当に少しだけ弱まったように思う。さっきまで視界を埋め尽くしていた雨のカーテンは、少しだけ薄まって夜の街を映し出している


家に帰る途中の公園に差し掛かる。今の時間は22時。子供なんているはずもなく、雨と風でブランコがキィキィ音を立てて揺れている
公園から視線を外そうとしたとき、目の端に映るなにかに目が止まる

それは灰色をしていて、屋根の無い遊具の端に、足を折ってそこに顔を埋めて身を縮めている

――子供だ

その子供は傘なんかさしていなくて、ただそこに座っている

なんでこんな時間にこんな所で傘もささずに。

疑問だけが浮上して頭の中をぐるぐる回る
横の車道を車が通る音がしてハッと意識を引き戻す。ここで突っ立っている場合ではない

『――っおい!大丈夫か!!』

急いで子供のそばに近寄って肩をゆする。そうすれば足に埋めていた身体は横に崩れ、雨がその子供の顔濡らす。仄かに赤くなった頬と、吐く息の荒さ

風邪をひいているのか。身体は冷え切っていて、唇は少し紫っぽく変色を始めている
急いで自分が着ていた上着をかけて、その子供を背中に背負う。子供は外見こそがっちりとしているが、思いのほか軽くて驚いてしまう。子供を背中に乗せて傘をさっきと違う手に持ち変えて歩みを進めた


さっきの公園は自宅の近場の公園で、すぐに家に着く事ができた

家の玄関を開けて、傘を乱雑に放置し靴を脱ぎ捨てる。子供の履いている靴も脱がして、急いでソファに下ろす。意識はないようだが、身は震えている

風呂のスイッチを入れて子供のもとに戻る
子供は灰色の髪をしていて、よく見ると殴られた後のような傷がある。喧嘩でもしていたのか、それとも―――



今は、他人のことを無駄に詮索するのはやめたほうが良いと首を振って、まずは子供の服を何とかしようと、着ているシャツに手をかける。

ふと手が止まって、子供が着ているものを見ると制服で、その服についたエンブレムには見覚えがあった。
『帝光』と書かれているそのエンブレム。『帝光』といえば、この家の近くにある私立中学。そして自身の母校でもある学校だった。
と言うことはこの子供中学生という事になる。中学生にしては少し身長があるような気がしなくもないが、紛れもなく帝光中の制服なのだから中学生なんだろう。中学生が何故こんな時間に・・・とまた疑問が浮かんでしまうが、それよりも先に服を変えなければと淡々とボタンを外していく


上を全部脱がした所で、驚愕した

腹部を中心に何かに殴られた痕や、多分何か熱いもの押し付けられたような火傷の痕が幾つもあった。喧嘩しただけでつく痕ではない。自身も過去に喧嘩していたことがあったのでわかってしまう。


この傷は・・・・・


『虐待』この二文字が頭から離れなくて、腹が煮えくり返るような怒りがふつふつと沸いてくる。けれど子供の震える身体が目に入って、ゆっくりと怒りを静めて、ズボンのベルトに手をかける







風邪をひいているようだが、風呂に入れるべきだろう

まぁそもそも風邪をひいているからといって風呂に入ってはいけない、なんてことはないのだが、昔から言われていた為少し戸惑ってしまうのは仕方のないことだ

ベルトを外してズボンも脱がす。やっぱり足も痣があって、実に痛々しい

子供を支えて脱衣所までいって、湯が溜まっているかチェックする。そして子供の身ぐるみの一切を外して、そっと湯に漬ける

一旦ソファに戻り、子供の服を回収して洗濯機の中に放り込む。その際ブレザーのうちポケットに携帯を見つけた。自室にいって上下のスウェットを用意する

中学生にしては身長があるほうだが、みたところ自分よりは高くないようなので、着る事には問題はないはずだ
急いで風呂場に戻り、子供に触れてみれば大分とマシになっているようだった

ゆっくり湯船から起こして脱衣所で持ってきたスウェットを着せる
子供を自室のベットに運んで寝かせ、用意しておいた濡れタオルを子供の額に乗せて、救急箱から、消毒液と絆創膏、子供の怪我の手当てを済ませていく



子供は何度か身じろいで、起きるかとも思ったが眉間に皺を寄せるだけで、起きる事はなかった



一通りやりおえて、そのまま自室を出る。ふぅと息を吐いてソファに沈むように座り込む


あの傷はどう考えても暴力をうけて出来る傷。こんな時間に公園に、雨も降っているのに傘もささずにいるなんて、絶対に、自分の推測が間違っていなければそうなんだろう


『あーこれからどうしよ』


もう一度深いため息をついて、横に倒れた

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