異国の日常:第2章

□第3話(切り裂きジャック編)
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お茶を飲みながら坊ちゃんたちは最近世間を騒がしている事件の話を始めた。

「数日前、ホワイトチャペルで娼婦の殺人事件があった」
「何日が前から新聞が騒いでるヤツよね?知ってるわ」

それなら私も知っている。
新聞はあまり読まないけれど、あれだけ一面を飾っていれば嫌でも気がつくものである。
しかし、ただの事件ではないようだ。


「あんたが動くってことは、何かあるんでしょう」

マダムの言う通り。
坊ちゃんが動くということはこの事件は"何か"があるということだ。
ただ事ではない"何か"が。

「被害者の娼婦、メアリ・アン・ニコルズは何か特殊な刃物で原型も留めない程滅茶苦茶に切り裂かれていたそうです」

セバスの言葉に私は思わず身震いする。
私でさえもそこまでしない。
一刀両断すれば人は死ぬから。
死んだ後も刻み続ける。
なんて猟奇的なのだろうか。


「市警や娼婦たちは犯人をこう呼んでいるそうだ。


切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

僕も早く状況を確認せねばと思い急ぎロンドンへ来たと言うわけだ」


そう、今回の目的はヤツを捉えること。
私はその手伝いをするためにここに連れて来てもらえたのだ。
命令さえあれば、すぐにでもヤツを消す。
私は腰に刺したままの刀にそっと触れた。


私達のただ事ではない雰囲気を感じ取ったのか、劉が面白そうなものを見つけたように笑う。

「女王の番犬が何を鍵つけるのか、我にもとても興味深いな。
だけど……君のあの現場を見る勇気があるのかい?」

劉は、まるで見て来たかのような口ぶりだった。
いや、もしかしたら実際に見て来たのかもしれない。
はぐらかされるだけかもしれないが。


「どう言う意味だ」
坊ちゃんが顔色一つ変えずに問いかける。
劉は席を立つと坊ちゃんに近づく。

「現場に充満する闇と獣の匂いが、同じ業の者を蝕む。足を踏み入れれば狂気にとらわれてしまうかもしれないよ。その覚悟あるのかい?ファントムハイヴ伯爵」

スッと坊ちゃんの頬に触れる劉。しかし、
坊ちゃんは目を細め、劉を睨みつけた。

「僕は"彼女"の憂いを掃うためにここに来た。くだらない質問をするな」
「_____いいね。いい目だ

そうと決まれば直ぐに行こうじゃないか伯爵!!」

劉は坊ちゃんの腕を掴んで走り出した。

「ちょっと!!」
「待ちなさい!」
慌ててそれを私とマダムが止める。
マダムはため息をつきながら立ち上がった。

「男ってのはせっかちね!お茶くらいゆっくり飲ませなさいよ。私も行くわ」
「ところで、現場は何処なの劉。
場所によっては馬車は使えないのだけれど……」

「知らないのかいマダム、棗」

劉は意味深に言葉を溜め、そして……

「なーんだーぁ。じゃあその辺の人に聞いて見ないとダメじゃないか」

なんて、ほざき……いや、言いやがった。

「「アンタ今まで知らないでしゃべってたワケ!?」」

当然のことながら、私とマダムはブチギレたのだった。

「落ち着け。誰も現場に行くとは言っていない。棗、先に出て馬車の準備をしてこい」
「イエス、マイロード」

坊ちゃんのおかげで少しだけ落ち着いた。
現場に行かないなら、十中八九あそこだろう。あそこなら、近くまで馬車も入れるものね。

一足先に部屋を出て廊下を歩いていると、後ろから誰かが追いかけて来ているのに気がついた。
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