短編

□桜の木
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任務も終わって屋敷に帰る前のほんのわずかな時間は私の自由時間だ。自由と言っても夜中だし、店なんか空いていないけれど。
だから普段は屋根の上でぼんやりするのだが今日は違う。
タンッタンッと屋根の上を移動してロンドンの一角にある公園に向かう。




まだ咲いてた
スタリと屋根から降りて公園の中に入り、とある木の根元までやってきた。



サァァァァ……

風が吹きあたりに花びらが舞う
そう、この木は桜。
私が生まれた国を表す薄紅色の花。
なんだか懐かしい



どこかしんみりとした空気に

「やぁ、久しぶり」

浸りたかったなぁ。


「なんでいるの?劉」
「我もここがお気に入りなのさ」
「……嘘ね」
「ははは」



劉と並んで桜を眺める。
「ところで、こんなものがあるんだけれど、どうだい?」
劉は袖の中から酒を取り出した。
日本酒ではないのか。

「あいにく、まだ帰らないといけないからいいわ」
「また我のところに泊まればいいよ」
「馬鹿ね。そうやすやすと泊まれない。明日はフィニに勉強を教える約束をしているもの」
「……妬けるね彼に」
「まだ14よ。あの子は」
「それでもだよ」
「はいはい」

劉はそっと私を抱きしめる。
普段なら投げ飛ばそうとするなりするんだろうけれど、今は疲れているということにしておこうか。
桜の木のせいで、人肌恋しくなっていたのは内緒だ。

「また遊びに行くよ。君に会いにね」
「仕事をしに来てよね。坊ちゃんがぼやいているから」
「頼まれたことはきちんとしているよ。そのご褒美さ」
「そう。じゃあねそろそろ帰るわ」
「気をつけるんだよ。夜は危ないからね」
「貴方もねマフィアの幹部さん」


されるままに頬に触れるだけのキスを受け入れ、私は公園を後にした。

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