異国の日常:第2章

□第3話(切り裂きジャック編)
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英国では5月から8月は社交期に入る。
地方に住む貴族たちが皆ロンドンに集まり、こぞって社交に精を出すのだ。
かくいう我らが坊ちゃんもその1人で…。


「坊ちゃんが町屋敷へいらっしゃるのは久しぶりですね」
「"あの手紙"さえなければ誰が……。人が多すぎて満足にあるかもしない」

どうやら全く乗り気ではないよう。
まぁ、あの坊ちゃんが意気揚々と社交界に出ていたら私は真っ先に偽物を疑うけどね。

「昼間のロンドンはいつ来てもさわがし…いえ、賑やかですね」
「正直でよろしい。しかし、何時ものように夜中に来て"仕事"をするわけではないのですから。言動には気をつけるように」
「わかってるわよ」


私が町屋敷に来たのはまだ数回。
また、こうして他の使用人抜きで来たのは初めてだ。
信頼されているのは気分がいい。

坊ちゃんが玄関から2階の部屋に向かっている間に私は1階でお茶の支度をする。

たまには、私と坊ちゃんとセバスでゆっくり過ごせ
「マダム・レッド!?
劉!?何故ここに…」
なさそうである。

慌ててカップを置くと2階に駆け上がった。
坊ちゃんたちがいる部屋を覗くと、案の定よく知った2人の姿があった。

「可愛い甥っ子がロンドンに来るっていうから顔を見にきてあげたんじゃない」
元バーネット男爵夫人
マダム・レッドことアンジェリーナ・ダレス様

「やあ伯爵。我は何か面白そうなことがあると風の噂で聞いたものでね」
中国貿易会社「崑崙」英国支店長劉

2人とも、坊ちゃんのところに来てから出会った人物だ。
ちなみに、マダムのことは母のように慕っている。
派手だが、実に優しいお人なのだ。

劉については省略させてもらう。
自分でもよくわかっていないから。

「棗、この間ぶりだね。我のネズミの情報は役に立ったかい?」
「ええ、まぁ。感謝はしているわ」
「それは良かった」

劉は私の首で光る首飾りを一度掬い上げ、何かを確認すると、マダムたちの方へ戻っていった。

ぼーっとしているとセバスから喝が跳ぶ。

「棗!何をぼんやりしているんですか。お茶の用意をしに行きますよ」
「あ、はい!」

出て行く間際にちらりと後ろを向くと、坊ちゃんがなんとも言えない顔をしていた。

大方、「1番厄介なヤツらが来た」とでも思っているのだろう。

御愁傷様である。
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