異国の日常
□第16話
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あれからは特に問題もなく私はのんびりと物産展を楽しんだ。
おもちゃなんかを見ると遠い昔、父と母、そしてもう顔を忘れてしまったが祖父と遊んだ記憶がぼんやりとだけど浮かんでくる。
日本を離れ、つまり祖父と離れて15年。
両親を亡くして10年。
人間の記憶力は侮れないな。
今でも薄ぼんやりと故郷の様子が思い出せる。
そうして色々と眺めているうちに日はだいぶ西に傾いていた。
「劉そろそろ帰ろう。」
「ん?もう良いのかい」
「ええ、十分楽しめた。」
「なら、帰ろうか」
私達はイーストエンドを歩く。
流石にここでは手を離してくれた。
昼間でさえ薄暗いこの地は夕暮れが1番不気味だと私は小さい頃から思っていた。
暗いなら暗い方が夜目が効く身としては楽なのだ。
ふと劉を見上げる。
こう見るとこいつは整った顔をしている
普段はセバスがいるし、坊ちゃんもいて、薄れるがきっとさぞかし女性が寄って来るのだろう。
マフィアの幹部という地位もあるしね。
そう、普通にあり得ることだ。
だからなんとなくあるもやもやしてる何かもきっと気のせい。
「棗。さっきから我の考え込んでいるみたいだけどどうかしたのかい?」
「暗くなったここはお世辞にも治安がいいとは言えないなと思っていた。」
「そうだねぇ。休みの最後にお客の相手するのは勘弁したいよ」
『お客』…
その意味がわからないほど私は馬鹿じゃない。
この男は頻繁に命を狙われているのか。
まぁ貿易会社の支店長でマフィアの幹部……。
商売敵に対立するマフィアなんかからお客は沢山だろうね。
この時ばかりは本当に坊ちゃんの使用人でよかったと思った。
前みたいな生活だったらいつその依頼がくるかわからないし、来たら絶対死んでた自信があるから。
「何か失礼なこと考えてないかい?」
「失礼なことは考えてないよ。ただ、私は劉の言う『お客』になる確率は今の所少ないからちょっと安心しただけ」
「……そうだねぇ。伯爵のところに君がいたら、裏切ろうなんて考えもなくなるよ」
「考えてたの?」
少しだけ不安になった。
もしそうなった時私は劉を殺さないといけない。
坊ちゃんの命令が今のところ私の全てだから。
そんな感情が表情に出ていたのだろうか?
劉は
「それはないよ。執事君もいるのに裏切ったりしたら100%我は命を落とす。それは流石に嫌だからね」
と言って私の髪を優しく撫でた。
(トクンッ
その瞬間胸が苦しくなった。
なんだ?今の……