短編

□相応しい娘に……
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「雅じゃない!!」

私がこの本丸の主になってから何度このセリフを聞いただろうか。
私の唯一無二の初期刀の歌仙兼定は自らを文系刀と名乗る通り日本的な美を好んでいる。
故に、現代の乱れた若者たちの服装や態度を毛嫌いする傾向がある。

でも、私は現世にいるような今時の女の子たちみたいに、バーンと足や肩を出しているわけでもないし、化粧だってほとんどしない。
本丸に来てからは着物を着て過ごしてきた。
なのにだ、事あるごとに私に上のセリフを言い放ち、審神者業の合間に『和な習い事』を歌仙監修の元やらされることになっていた。

「どこがダメだって言うのよ」
現在その『習い事』の真っ最中。
今日は花道で、茶室兼用の和室に季節の花々を広げて歌仙と2人、花とにらめっこを続けていた。

「なんだい?わからないことでも?」
生け方がわからないと思ったのか、歌仙がこちらへ近づいてくる。
「違う。あなたが私に対して必要以上に『雅ぃー』な女にさせようとしている理由がわからないの」
「何を言い出すかと思えば…くだらないことを言っていないで、早く生けてしまわないとせっかくの生花がダメになってしまうよ」

はぐらかされた。
私はふてくされながらも、花を手に取り剣山の上に刺していく。
週一でやっていればそこそこ上手くはなっていくものだ。
正直、面倒ではあるが、この時間は嫌いではない。慌ただしい戦から少しだけ遠ざかることができるし、何より静かで心が落ち着く。


「………」
ふと視線を感じて顔を上げた。
「………なに?」
視線の主はもちろん歌仙。
歌仙は突然顔を上げた私に少し驚いたようだったがすぐに平静を取り戻し言った。
「いや、そうしていると随分と教養のある娘のように見えるものだからね」
「誰かさんのおかげで、教養はどんどんついていますからね〜」
「僕から言わせれば、まだまだだよ」

最後に葉を置き、完成したと歌仙に知らせる。
「……中々いいんじゃないかい?これは玄関に飾っておこう」
「はいはい、あー足が痺れたよ〜」
「後で燭台切に叩いて貰うといい」
「歌仙、それ私の足が死んでしまう」
「冗談だよ」

笑いながら歌仙は部屋から出て行った。
ほんと、怒ったと思えば笑ったり、叱るかと思えば褒めてくれたり…。
私の初期刀は中々に人間臭くて素晴らしい神様だ。





歌仙は審神者が生けた花を玄関に置き、それを優しく撫でた。

「本当に……随分と僕に相応しい娘になってきているよ」

笑顔の奥で思い出すのは忌々しい政府の人間の言葉。


『神社や力のある家の娘ならまだしも、下賤な一般人の娘を神嫁にするなど言語道断です』


ここの歌仙に直接言われたわけではないが、自分の分霊が言われたりすればその情報はやってくる。
本当に忌々しいことだ。
確かにここの審神者は一般の生まれ。
しかし、戦績は有能な家の出の者に引けを取らず、刀剣たちとも良好な関係を築いている。
そんな彼女に惚れ込んだのは他でもない自分。

政府の人間は彼女を自分に相応しくないと言い張る。

ならばどうするか。
役人たちを亡き者にすることも考えた。
が、そうしては彼女に責任がやってきてしまう。それでは意味がない。
だから、彼女を徹底的に教育することにした。
自分の隣に立っていても誰も文句を言わない、完璧な娘にすればいい。
結婚相手の教育を男がするのは光源氏がやっていたのだから、雅さに欠けることはない。




「もう少しだね……僕はあまり気が長い方ではないが…たまにはゆっくり待ってみようか」

歌仙はもう一度だけ花を撫で、愛する主のいる部屋へと戻っていった。
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