短編

□ホワイトデー2017
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数日前から私宛に謎の荷物が届いている。

「また来てますだよー」
「はぁ……」

メイリンが持って来てくれたのは一輪の薔薇の花。
毎日毎日、コレで8日連続である。

「しかし、素敵ですだね。毎日贈り物だなんて」
「そう?正直うっといしい気もするわよ。贈るなら一括で送った方が送料も少なくて済むし」
「もう、ロマンがないですだよ」
「なくていーの」

そんな会話をしながら、屋敷の窓を磨く。
もっとも、私はメイリンが窓を割らないための監視でもあるわけだけど。

「しかし、妙ですだよね?」
「何が?」
「薔薇の花ですだ。バレンタインはとうの昔に終わってるのに」

"バレンタイン"

その言葉に私の体温は上昇する。
一ヶ月前のあの日、私は劉相手にそれはもう恥ずかしいことを言った気がする。
いや、気がするでなく確実に言った。

それ以来会ってはいないからいいのだけれど、願うことならばあの事は水に流してもらいたいものである。

「どうかしたですだか?」
「う、ううん。なんでもないよ。でも、確かにそうよね。そもそも、どうして私にって話だし」
「いや、それは…」

贈り主は分かっているのだ。
だから、坊ちゃんもセバスも他の使用人も薔薇が贈られてくることについて何も言わない。

それどころか、「はいはい」という目であしらわれてしまうのだ。

「劉様も会いにくればいいですのに」
「な!?いいわよ別に!!」


"素直になれとは言わないが、少し向き合ったらどうだ"

随分前に坊ちゃんから言われた言葉。
向き合うとは何と向き合えというのか。


わからない。いや、わかっているが認めたくない。





翌日、3/14

今朝は何も届いていなかった。
ようやく飽きたのかとアフタヌーンティーの時間まで愛刀を振るう。

集中していた意識を周りに向けると、後ろからよく知る気配が漂った。

「いつから見ていたの?」
「さあ、我が来た時にはもう君は集中していたからね」

悪びるわけでもなく、平然と花壇の淵に座ってにこにことこちらを見ている劉。

ため息をついて刀を鞘に収めた。

「それはそうと、あれはなんの真似?」
「薔薇のことかい?」
「ええ」
「我が今までに贈ったぶんはどうしたんだい?」
「……部屋に飾ってあるわ」
「見にいっても?」
「仕方ないわね」


部屋のドアを開けると、目の前の机の上の花瓶に今まで送られてきた薔薇の花が生けてある。

「うん。きちんと8本あるね」
「始めの方のは危ないけれどね」
「それでもいいのさ。8本あることが重要だからね」
「どういうこと?」
「今日の分がまだだったね」

劉はそういうと何処からともなく他のものと同じ薔薇の花を一本取り出し、私に差し出した。

「これで最後だよ。受け取ってくれるかい?」

拒む理由がない。
私はおずおずと手を出して薔薇の花を受け取った。
「質問の答えがまだだったね。花を贈ったことについては、この前のお返しといったところだよ」
「この前……」
「バレンタイン」

その言葉に私は前日のように一気に体温が上がる。
「べ、別によかったのに」
「いいや。せっかく君が作ってくれたものだったからね。我なりに色々と考えたのさ」
「それで、これ?」
「そうさ」

劉は私の手から薔薇の花を取ると8本がすでに生けてある花瓶の中に入れた。
全部で9本になった薔薇。

「9本の薔薇の意味は……」


劉の口から出た言葉に、私はまた顔を真っ赤にさせるのであった。

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9本の薔薇……いつもあなたを想っています




諸説あり!!!



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