短編

□書けば出るシリーズ
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『数珠丸恒次』


「青江、明日暇?」

夕食後、端末をいじりながら彼女はそう言った。

「暇だけど、何かあるのかい?」
「小鳥遊さんが明日青江も連れて来いって。なんだろ本丸に行く話はなかったんだけどなあ」

後ろから端末を除くと理由を求める彼女の文章の後に来ればわかると言う趣旨の文章が続いていた。

「部長のことだから変なことじゃない、よね?」
「彼は信頼におけると思っているよ」
「だよね」

彼女は少し考えてから「わかりました」と端末に打ち込んだ。





「私は、数珠丸恒次と申します。
人の価値観すら幾度と変わりゆく長き時の中、仏道とはなにかを見つめてまいりました」

目の前に立つ付喪神様に私は驚いて立ち尽くしてしまった。
ハッと我に返って隣を見ると私以上に目と口を開ける青江の姿があった。

「ぶ、部長!どうしてここに数珠丸様がいるんですか!!」
慌てて小鳥遊部長に詰め寄るが、彼は笑いながら「俺が連れてきたからな」
とのたまいやがった。

違う、そうじゃない。
とため息をつきながら青江たちの方を振り返る。
数珠丸様はニコニコと嬉しそうに笑いながら青江に近づく。

「貴方とは初めてですね。話を聞いてからずっと会ってみたいと思っていました」
数珠丸様の声にようやく我に返ったのか青江は彼を見ながらどこか複雑な顔をした。
「天下五剣様に知っててもらえるなんて光栄だな。けれど、僕は君の思っているような刀ではない。僕の本霊の方が余程イイ話をするだろうさ」
「貴方の本霊に貴方のことを勧められたのですよ」
「……そうかい」

何故だろうか。
青江の言葉に少しだけ棘があるように感じた。

「それじゃあ御二方、我々は仕事に戻りますので。ほら、行くぞ」
「あ、はい。青江、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「数珠丸様、そこの応接室は自由に使ってもらって構いません。御用の際は壁にある電話をお使いください」
「ありがとうございます。では行きましょう。にっかり」
「え?」

突然呼ばれた青江は驚いて数珠丸様を振り返った。
なぜ共に行かなくてはならないのか。
その目はそう語っていた。
おおかた、私を見送ったら帰るつもりだったのだろう。

「私は貴方と話がしたい。ダメでしょうか」
「……少しだけなら構わないさ」

折れた。
青江も兄弟刀には弱いらしい。
大丈夫だと確信した私たちは職場に戻ってた。
青江は兄弟と何を話すのだろうか。


それが青江にとって大切な時間になればイイと、そう願った。
 

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