短編
□悩み事
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にっかり青江は悩んでいた。
それは、自分の主の女らしさの無さにである。
歳をとれば恥じらいは無くなるとはいうが、彼女はまだ20代。
現代ではまだまだ若者の域である。
しかし、彼女は……
「青江ぇーシャンプーの替えどこー?」
「せめてタオルを巻いて呼んでくれないかい!?」
また別の日には
「あのタレントさん……いい胸してるね」
「……あのねぇ」
と、まぁこんな感じ。
下ネタもOKだし、恥じらいってものがあまり無い。
青江も神の端くれとはいえ男。
男として認識されていないのはどんなものであっても嫌らしい。
「君ねえ。少しは女らしさを持ったらどうだい。そんなんじゃ家庭を持てやしないよ」
青江は久しぶりの休暇をソファーの上で雑誌を読みながら謳歌している彼女にそう言った。
すると雑誌から目を離した彼女は死んだ目をしながら青江を見た。
「えー。正直家庭は持つ気無いからいいんじゃない?というか、こんな仕事してたら出会いの『で』の字すら見えないしね」
はははと死んだ目のまま乾いた笑い声をあげる彼女に青江はため息をつく。
「それであっても、少しは気にした方がいい。何があるかわからないからね」
それを聞いた彼女はじとっと青江を睨むと雑誌に視線を落とす。
「そう。青江は私とさよならしてもいいんだ」
「な、なんだいその言い方。……そこまでは」
「だってそうでしょ?家庭を持つってことはこの仕事からは手を引くんだよ?一般人に戻るんだったら付喪神様とは暮らせない」
青江は寂しそうな彼女の背中を見て自分の失言に気がついた。
そばにいると誓ったのは自分だ。
それなのに……
青江はそっと彼女を後ろから抱きしめた。
「なによ」
「ごめんね。僕はどこにもいかないから。だから、君もどこにもいかないでおくれ」
人のみでしか知りえなかった暖かさ。青江はそれを彼女に教えてもらった。青江にとっても彼女は大切なのだ。
「私も言い過ぎたよ。ごめん。これでおあいこね」
「ああ」
「そうだ、久しぶりに街に行こう」
「休まなくて平気かい?」
「最近青江と出かけてなかったからね」
「全く仕方のない主だ」