文学者達ノ恋模様

□兵士と捕虜
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ひんやりとした地下へと続く道。ゆらゆらと揺らめく灯籠だけが、仄かに足元を照らし出す。
戦地から帰ってきたばかりの太宰。軍服は砂埃にこそまみれているものの、他は綺麗なままだった。
「今日も圧勝だったのかァ?」
地下の最奥。他のどの牢獄よりも頑丈な、分厚い鉄の扉。その向こうに幽閉されているのは、太宰の所属する軍と敵対している軍の幹部、中也。
薄っぺらい捕虜用の布をまとい、鎖に繋がれ、四肢の自由を奪われていた。
「君には、関係ない」
そっけなく答える。中也は気を悪くしたようすもなく、牢の向こうでたおやかに微笑んだ。頬にはしる真新しい傷が、歪にゆがみ血が流れる。
「で、最高幹部サマが捕虜なんかに何のようなんだ?」
「……あのね、君は一様捕虜何だよ?」
「俺は、俺だ。それ以外の何者でもねぇ」
「はぁ……」
この調子だと、聴取班は大分苦労しているだろう。大きな溜め息をもらしてから、太宰は牢に近づいた。
「なんだ?お前が拷問でもしに来たのか?」
「プレゼント」
「あ?」
ガチャリ、と軽快な音をたて牢獄の錠が外れる。驚きのあまり、中也は目を丸くした。
「お、おいっ……!」
「静かに」
声をあげた中也を抑制し、さらに四肢の自由を奪っていた鎖も外した。
支えを失い、鎖はじゃらじゃらと床に落ちていった。
「プレゼント。最初で、最後の」
太宰はそう言ってそっぽを向いた。
「は……これまた新しい形のプレゼントだな」
中也は太宰の方を向き、大きく伸びをした。凝り固まっていた体が、バキバキと音をたてる。
「あ〜自由に動けるって良いなァ……んで?お前はどうすんだ」
太宰の肩が、びくりと震える。
「私は別に……」
「捕虜を逃がしました、其れで手前の上司が納得すんのか?」
「っ」
声を詰まらせた太宰を見て、今度は中也が溜め息を付く番だった。
「プレゼントを貰いっぱなしってのも、気持ちが悪ィからよ」
「?!!」
 急速に二人の距離が狭まる。目を白黒させる太宰を余所に、近付いた唇と唇を……交じ合わせた。
「……」
ずるりと太宰の体の力が抜け、冷たい地面に伏す。中也は、太宰の鳩尾に食い込ませた拳を、そっとほどいた。
気絶した太宰の横顔を一瞥し、中也は牢の外に出た。
「ったく……青鯖も此処までいくと上物だな」
ニヒルに笑い、最下層の地下から、地上へと繋がる階段の向こうを見上げる。
「折角のプレゼントだ、大事に使わせて貰うぜ、太宰?」

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