文学者達ノ恋模様
□「もっと」
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(……ちょっと、ヤバイ…)
殺風景な自室の片隅で、敦は膝を抱え、うずくまっていた。その口から漏れる息は、どことなく艶っぽい。
「ただのチョコだって……くっそぉ…」
あの詭弁役者め、と敦は心の中だけで悪態をつく。
太宰が先刻、にこやかにチョコレートをプレゼントしてきた。
(日頃の感謝だよ。2月14日だったし、丁度いいかなって)
「くそが…」
疑うべきだった。なんの違和感もなくアレを頬張ってしまった自分が憎い。でも……まさか。
「媚薬とか……あの人脳ミソ空っぽですか……」
疼いてしょうがない。渇いてしょうがない。
今すぐにでも熱を吐き出したいが、体に力が入らないのだ。もどかしい。気がおかしくなりそうだ。
……と、その時
「おい、いるか?」
聞き覚えのある声が、ドアの向こうから聞こえてきた。反射的に鍵を閉めようと膝を抱えていた手を離すが、それがまずかった。衣服が擦れ、敏感になった体が甘い悲鳴をあげる。
「っ…うぅっ」
膝をつき、畳にうつ伏せとなる。外で敦の返事を待っていた中也は、呻き声に反応し、勝手に戸を開けた。
「敦!!大丈夫かっ……え?」
「う、ぁ……帰って!」
勢いよく侵入した中也は、敦の格好を見て暫し固まった。
赤くほてった頬。乱れた髪。わずかにうるんだ瞳。
思わず、持っていた見舞品を落とす。
「なっうわ、中也さん?」
「……」
「あの、帽子落ちて…え、中也さん?」
「……」
「なんっ……何で入り口の鍵閉めたんです?」
「……」
「あの…どうして前の牡丹緩めて……」
黙り込んだ中也に動揺が隠せない
敦。
「ちょ、あのっ中也さ……ひゃっ」