文学者達ノ恋模様
□虎は月下に身を焦がす
1ページ/2ページ
しなやかに
したたかに
いとしめやかに
月下に咲いた秘密の花は
光に当たればその身を焦がし
枯れ逝くために咲き誇る
敦は、一人探偵社のソファーに腰掛け、ぼうっと虚空を見上げていた。
いつも以上に間抜けな面。彼の脳裏に浮かび上がるのは、自殺愛好家の青年。自らを救ってくれた、太宰治という、どうしようもなく痛い人。それでいて。
昨日、彼を二人きりの探偵社で犯した人。
「はあぁぁぁ……」
思わず漏らした大きなため息。
何故、あんなことをされたのだろう。ドアを開けて家に帰ろうとした時。後ろからのびてきた手。かけられた鍵。驚いて振り向いたら。
接吻、された。
長い、接吻にしてはやけに長かった。酸欠気味になり、ようやく口が離れたときには。
まだまだ若い敦、勃っていた。
「……接吻…だけでって…」
今思い出しても泣きそうだ。
太宰にやられた。否、ヤられた。ドアに手をついて、後ろから囁かれながら。
甘い吐息、囁き、愛撫。イく間際に耳に飛び込んできた…「愛してる」
本気なのか冗談なのか、真実なのか偽りなのか。敦には、判別がつかなかった。
しかも、好き放題ヤった、彼は何処かに消えてしまった。呆然自失で立ち尽くす敦を置き去りにして。
「何なんですか、もぅ……」
僕も好きだと、言いたかったのに。
そうだ。今度二人きりの時があったら僕が襲ってやろう。実際僕は人畜無害な獣じゃ無いんだ。
一応虎って、肉食だし。
敦は無人の探偵社で一人、誰も見たことのないな不敵な笑みを浮かべ、獲物を見定めた獣のように、唇をペロッと舐めた。
しなやかに
したたかに
いとしめやかに
月下に咲いた華ならば
その身焦がして
次は月夜に燃やすまで