文学者達ノ恋模様

□虎は月下に身を焦がす
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しなやかに
したたかに
いとしめやかに
月下に咲いた秘密の花は
光に当たればその身を焦がし
枯れ逝くために咲き誇る


 敦は、一人探偵社のソファーに腰掛け、ぼうっと虚空を見上げていた。
 いつも以上に間抜けな面。彼の脳裏に浮かび上がるのは、自殺愛好家の青年。自らを救ってくれた、太宰治という、どうしようもなく痛い人。それでいて。
 昨日、彼を二人きりの探偵社で犯した人。

「はあぁぁぁ……」

 思わず漏らした大きなため息。
 何故、あんなことをされたのだろう。ドアを開けて家に帰ろうとした時。後ろからのびてきた手。かけられた鍵。驚いて振り向いたら。
 接吻、された。
 長い、接吻にしてはやけに長かった。酸欠気味になり、ようやく口が離れたときには。
 まだまだ若い敦、勃っていた。

「……接吻…だけでって…」

 今思い出しても泣きそうだ。
 太宰にやられた。否、ヤられた。ドアに手をついて、後ろから囁かれながら。
 甘い吐息、囁き、愛撫。イく間際に耳に飛び込んできた…「愛してる」
 本気なのか冗談なのか、真実なのか偽りなのか。敦には、判別がつかなかった。
 しかも、好き放題ヤった、彼は何処かに消えてしまった。呆然自失で立ち尽くす敦を置き去りにして。

「何なんですか、もぅ……」

 僕も好きだと、言いたかったのに。
 そうだ。今度二人きりの時があったら僕が襲ってやろう。実際僕は人畜無害な獣じゃ無いんだ。
 一応虎って、肉食だし。

 敦は無人の探偵社で一人、誰も見たことのないな不敵な笑みを浮かべ、獲物を見定めた獣のように、唇をペロッと舐めた。


しなやかに
したたかに
いとしめやかに
月下に咲いた華ならば
その身焦がして
次は月夜に燃やすまで
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