短編

□拝啓、君へ
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『拝啓、名無しへ。

 海風が温かいこの時期、春島に降り立ったのでこの手紙を書いた。…最近ずっと書けなくて悪かった。少しばかりゴタゴタがあってな。だが、これからはまた以前のように続けられると思うから安心してくれ。
 さて、今回船を付けた春島では花祭りというイベントが開催されているようだ。どうやら女性に花を渡すイベントらしいが…俺には合っていない。柄じゃないからな。シャチやバンダナの方が柄に合うから、俺は船でシャチとバンダナの分の不寝番を引き受けておいた。あいつらは遅くまで出て朝方に帰ってくるから悩みものだ。そうだ、ローから一輪花を譲って貰ったんだ。同封しておくからよかったら押し花にして栞にするといい。花はこの島で一番可憐だと言われる花だ。気に入るといいんだが…。
 あぁ、そういえば、そっちの島は今は雨だろうか?そっちの空気が懐かしいよ。天候には恵まれこそしなかったが、美味しい食べ物や綺麗な景色があるからな。お前の作った料理は特に旨い。島の特産の酒との相性が合っていて…』

コンコンッ

ペンギン「ん…誰だ?」

手紙を書く手を途中で止め、扉の方を向く。殺風景な部屋の扉がゆっくりと開かれた。その扉の向こうには長身の男が立っている。俺の船の船長、トラファルガー・ローだ。俺とローは幼い頃からの友人で、俺が無理を言って船に乗せて貰っている。

ロー「俺だ」

返事をしていないのに扉を開けてから悠々とした口調でそう言うロー。自由というか…何というか。

ペンギン「…ローか。」

俺は身体をローに向け、どうしたんだと問うてみた。ローは部屋の中に入るとソファに腰掛け足を組んだ。ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたかと思うと唇の端をあげテーブルの上の本を何故か読み始めた。

あぁ…この顔の時はロクなことなんてないな。俺は瞬間的にそう察した。新しい玩具を見つけたとばかりに笑うローは、ゆっくりとその口を開いた。勿論、視線は本に落としたままだ。

ロー「ペンギン。お前まだ“あれ“は続いているか?」

ペンギン「何だ、藪から棒に…。続いているがどうした?」

ロー「いや、だったらいいんだ。ここ最近ゴタゴタしていたからな。あいつに愛想をつかれたんじゃないかと危惧したんだ」

ペンギン「心配無用とだけは言っておくが…。何故お前がそんなに心配をするんだ。どうしたんだ一体」

人の色恋沙汰に首を突っ込んでいるローに違和感を感じる。熱でもあるんじゃないか?それか明日は海が荒れるのか?

ローは何となくだ、と言ってテーブルに本と箱を置いて部屋を出て行った。本当一体何だったんだ…。
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