突発的短編

□その瞳には
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「はぁ……ロ……。んっ……」
甘い情事。毎日のように行われるそれにももう慣れた。
彼女の恋人であるローがズルリと自身を抜けばレティは肩で息をする。
「好きだ、レティ」
そんなレティにローはまたそうやって嘘を吐く。耳元でレティに偽りの愛を囁く。
「私もよ、ロー。愛してる」
その目に映るのは私じゃない。
その手が伸ばされるのは私じゃない。
その唇が呼ぶのは私じゃない。
私は求められてなんかいない。
その瞳の奥で抱かれてたのは、愛されてたのは私じゃない。
それが行為の後にはよく分かるから。もう、疲れたの。


「キッド?」
停泊していた島で見つけたのはよく知る人物。一人で旅をしていた時に出会い、いつの間にか酒を酌み交わす仲になった。ローの船に乗った後もちょくちょく出くわすから腐れ縁かもしれない。まぁ、彼はそんな風に思ってないのだけど。
「レティじゃねぇか。ようやく俺の女になる気になったか?」
毎度毎度キッドはレティを口説いてくるのだ。
適当にかわしつついつもの流れで酒場へ入る。同じウイスキーを頼めばいつものくだらない話をするのだった。
「…ねぇ、キッド」
「ん?」
私はもう、耐えられない。
「抱いて」
「ブフーーーーッ‼︎」
レティの突然の言葉にキッドは口に含んだ酒を吹き出す。
「…てめぇ、トラファルガーの女だろうが」
「……」
反応のないレティにキッドは頭をポリポリと掻いて溜息を吐いた。
「迷惑はかけないわ。お願い」
「言ってる意味分かってんのか⁉︎」
「いいじゃない、好きな女抱けるのよ?」
「そういう問題じゃねぇ‼︎」
声を荒げる。そんな自分を好きでもない女を抱くなんざあり得ない。
「……最後くらい、私を見て抱かれてみたいのよ………」
その言葉が、何より重く聞こえた。その瞳には一筋の涙。
「お前…」
「ローは私を見てなんかいない。私は彼を愛してるけどもう耐えられないの。だから…」
「そうやって、俺を見ないだろ、お前は」
そうやって、抱いてる女が他の男、ましてトラファルガーに抱かれる夢を見るなんざ最悪だろ。
「ちゃんと見るわ。ちゃんとキッドだけを見る。一度だけでも愛し合いたいの。駄目?」
「…後悔、すんなよ」
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