突発的短編

□海の人
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夏島に停泊中、いつものごとく私は”赤髪のシャンクス”に見つかり彼の船に来た。確か、まだ19やそこらだったと思う。彼を男だと意識し始めた、そんな時だったからこそのいい体験だったのを今でも覚えている。


「なぁ、これ着てくれよ〜」
酒臭い隣の男に肩を組まれながら見せられたのは水着。それもビキニで胸がかなり強調されてるやつ。
「は?寝言は寝て言え」
そう一刀両断したもののこの男はいつまでもくいさがる。
「な〜あ〜」
「頼むよぉ〜」
「レティ〜」
このクソ暑い島でベタベタと触られ寄られむさ苦しいことこの上ない。
「……うっさい!!少しは黙れないのっ!?」
「うっ……。じゃあ着てくれたら黙るからよ!」
「頼む」なんていい歳したおじさんがかわいらしく言うものだから仕方がなく「少しだけだから」と承諾してしまうあたり甘いのだと思う。
「これで満足?」
正直恥ずかしいことこの上ない。だって、シャンクスの部屋で2人っきり、しかも水着という……。
「………」
ニヤけて鼻の下を伸ばしてるだろうと思って顔を見れば、彼は手で顔を隠して俯いてる。普通、「綺麗」とか「似合う」ぐらい言ってもいいところよね、これ。
「何よその反応、何かないの?」
少し苛立ちながら言えばシャンクスは顔を少し逸らしつつ「想像以上で…」とぼそりと呟いた。その顔が赤かったもんだから、こっちまで恥ずかしくなる。
「じゃ、き、着替えてくるから……」
棚に隠れようとすると腕がシャンクスに掴まれていた。
「な、何?」
「折角着たんだ、降りて海にでも行こう」
その言葉にレティは驚く。
「…私、能力者なんですけど?」
幼い頃悪魔の実を食べたレティは泳げない。海で泳いだ記憶なんてない。そんなレティを海に誘うだなんて、一体この男は何を考えているのだろうか。
「いいじゃねーか、少し歩くくらい平気だろ。な?」
「……はいはい」
何だかんだいつも自分が折れてると思ったレティだった。シャンクスのお願いには、どうも弱い。


水着姿を他の船員に見られたくないらしく、彼はレティに自分のTシャツを上から着るように言う。独占欲強すぎでしょ。言われるまま着れば安定のぶかふか。
ビーチに降りればヤソップやラッキー・ルゥらがバレーボールをしていた。女の子がいないので全く目の保養にはならない。モビーのナース達がいればいいのに、と思う。まあ、あれはあれでビキニ着たら刺激が強すぎるけど。
「何考えてんだ?」
「別に、くだらない事よ」
シャンクスはレティの手を取って少しリードするように歩き始めた。手から伝わる熱が恥ずかしかった、足首まで浸かる海水が冷たかったのが、とても鮮烈に記憶に残る。
「……」
「……」
互いにだんまりになってしまいどれくらい歩いただろうか。振り返ればレッド・フォース号は小さくなっていた。
「随分と遠くまで来たわね」
「邪魔がいなくていいだろ?」
いつも子供のような顔をするくせに、こういう時だけ余裕ぶった大人の顔をする。ドキッとする反面、自分がまだまだ子供なのを自覚してるから余計に腹がたつ。
「もう少し、海に入ろうかな」
「大丈夫なのか?」
「もう能力は使えないけどね。折角水着着たんだから、少しくらい遊びたいのよ」
そう言って少し海の奥に入っていく。だんだんと海水に浸かる部分が多くなる。足首までだった海水がふくらはぎまで来た時、途端に力が抜けるのを感じた。
立っていられなくなり、そのまま崩れ落ちる。倒れるかと思ったのだが、シャンクスが支えてくれたおかげで仲良く2人して海の中に座り込んでしまった。その拍子にパシャンと海水が跳ね、シャンクスの代名詞とも言える赤い髪を濡らした。
「ははっ、はははは!おいおい、何やってんだよ」
笑って髪をかき上げる様に、少し頬が熱くなるのを感じた。
「……」
「どうした?見惚れたか?」
おどけた調子で言ってきたから慌てて「そんなわけない」と否定する。この男にそうだと知られたら最後、ストーカーが酷くなるのが目に見えてる。
「レティ」
彼の呼び声に心臓がドキンと跳ねる。そのままこの男はレティの額に自分の額をコツンとぶつけてきた。
驚く隙もなく近すぎるその距離が更に縮まりそうになる。流されそうになる自分がいる。けれども、それではいけない。
「やめて、赤髪」
ピシャリと冷たい声色で彼を止める。レティは白ひげ海賊団で、シャンクスは赤髪海賊団。しかも彼は船長。互いのためにも拒まなくてはならない。
「…ふざけすぎたな。……帰るか」
「う、うん」
突っぱねたのはレティなのに、もう少し、ここにいたいと思う自分がいた。
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