突発的短編

□祝福と感謝をこめて
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「え?明日?」
「そ、明日」
ペンギンとシャチはキッチンで夕食の食器を洗っていたレティにあっけらかんとそう言い放った。
「マジで?」
「マジで」
「どうしよう……」
なんと、我らが船長であり恋人であるトラファルガー・ローの誕生日が迫る明日だというのだ。公私ともに大切な人の誕生日すら知らなかった自分って……。
もちろん、プレゼントなんてもの用意してない。
「皆はどうするの?」
「俺らは毎年酒と医学書。船長、いつも準備してるの気付いちまうからサプライズなんかできねぇんだよ」
「だから先に欲しい本とか聞いとくんだ。前の島で本屋寄ったろ?」
「アレか……」
そういえば、そうだった。珍しくあの二人が本屋に入ってったと思ったらそういうことだったのか。
「お前も船長に聞いてみれば?」
「え…」
なんの準備もしてないのバレるじゃん。


とはいえ何もしないのではあんまりだ。
ローさんの部屋に入り、おずおずと近寄る。
「何だ、珍しいな。こんな時間に来るなんて」
確かに、夜も11時を回った。こんな時間に船長の部屋に来るなんて、非常事態くらいだろう。
「え〜と、その〜」
い、言えない。
「あ、明日、誕生日だと聞きまして……」
「ああ、そうだな」
「それで、その……」
「はっきり言え」
「知らなくて。それで、まだ、何の準備もしてなくて。ごめんなさい」
なんでだろ、泣きそうになる。だって、ローさん絶対楽しみにしてるに決まってる。大切な誕生日なのに、恋人の私が知らなかったなんて、恋人失格だよ。
「…次の島でだけど、欲しい物とかあるなら用意するし、えっと……」
「じゃあ、俺と一日中一緒にいてくれ」
「そんなんでいいの?」
「お前は俺と一緒にいるの嫌か」
ブンブンと首を振る。うれしいに決まってる。
「じゃあ決まりだな」
そう言ってローさんは立ち上がったかと思えば後ろから抱き締めてきた。
「ちょっ…」
何するんだ。突然。そう思って反抗の意を持って彼を睨みつけた。
「何だ、あと10分やそこらで6日になる」
耳元でそう囁かれると顔に熱が集まっていくのを感じる。
「いや、その、それはかなり恥ずかしい……」
最後は声が消えるように小さくなってしまった。
「……」
「……」
それから何分経っただろうか。ただ二人でいるこの時間が何より幸せに感じる。
いつまでも、こうしていられたら。
「あ……」
カチッと音がして、部屋の壁にかけられている時計の短針と長針がきっかり12を指した。



「おめでとうございます、ローさん。生まれてきてくれて、本当にありがとうございます」


fin.
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