突発的短編

□伝わらなかった言葉
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初めて会った時、その強い意志に満ちた瞳に惹かれた。
「トラファルガー……ロー?」
「ああ、一人旅のお嬢さん」
立ち寄った島の小さな酒場。彼女は医師を目指して様々な島を回り医術を身に付けているのだと言う。
「”死の外科医”でしょ。同じ医者でも全然違うわ」
「医者に変わりはねぇ」
「変な人ね」
珍しく、医学について語った。


彼女が変な男に絡まれていたのを見て、苛立ちのまま男をのした。彼女の顔を見れば、泣きそうな顔をして、それでいてニッコリと笑った。
「船長さん、ありがとう」
「気にするな」
思えばこの時にはもう惚れていたのかもしれない。守りたい、そう思った。


そして、ログが溜まり出航だという時、俺は攫うように彼女を連れだした。
「船に?海賊になれって言ってんの?」
「助手が欲しかったところだ。乗れよ」
「でも、海賊船でしょ……」
「お前に怪我はさせねぇ。守ってやるよ」
「ムッ。船長さんに守られなくても大丈夫ですー‼」
ムクれた顔に笑みが零れた。


日に日に距離を縮めていったのは、やはり男女というよりは医者という繋がりの方が多くて。俺自身、女として意識する事はそうなかった。関係を現すならば師匠と弟子、または先生と生徒、はたまた学友かもしれない。
「ロー、ここの文章の意味がよく分からないんだけど……」
「この術式は確立されてねぇ。それよりも………」
「そっか、分かりやすい‼」
夜な夜な訪れては甘い雰囲気になる訳でもなく勉強会を開く。そんな関係に、心地良さを感じていた。


いつだったか、他の海賊どもが襲ってきた時、俺は彼女を守って怪我をした。
「ロー。怪我してるじゃない‼」
「お前が無事でよかった」
「馬鹿っ‼」
涙を零す彼女に、女を見てしまった。自分の為に泣いてるのが嬉しかったはずなのに、どこか心が痛んだ。


ある日の夜、彼女は言った。
「好き……です」
「じゃあ、付き合うか?」
「え、あ、う……、うん。お、お願いします……」
嬉しかったはずなのに、何かを失った気がしてしまった。


分からない。自分はレティを医者として見てるのか、女として見てるのか。
その答えは出ないまま段々とその位置付けは2人を男女にしていく。あの頃の2人はもういない。
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