それでも私は2

□君のために
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「レティちゃん、そういう格好、似合わないねぇ〜」
気だるそうに言うのはクザン大将。マリージョアからの政府専用の船を降りた天竜人の服を着た私をそう言って出迎えたのだ。この半年、レティは私服でお忍びとして来ていたためこんな大層な出迎えは無いのだが、今日は大勢の海兵が列をなして出迎えた。
「お久しぶりです、大将青雉。この度は私のわがままを聞いてくださりありがとうございました」
久しぶりに色々な話をしたいのは山々であったがこの服を着ている限り、私はあくまで天竜人。いつもとは訳が違う。他人行儀に話しかければ彼もそれを察したのだろう。ズボンに突っ込んでいた手を出して少しだけ、ほんの少し背筋を伸ばした。
「いえ、世界貴族たってのご希望では断るわけにもいきませんから。どうぞこちらへ。出立は明日ですのでおくつろぎください」
そう言って列になり敬礼する他の海兵達の間を歩いていく。この前、マリンフォードを抜け出して島を歩いた時も思ったのだが、この人の足の長さだと彼がゆっくり歩いても私は小走りにしなければ追いつかないのだ。


「本っ当に、申し訳ありませんでした。なんか超上から目線でずけずけと…」
案内された部屋に入るなりマスクを取って土下座しかねない勢いで頭を下げてきた彼女。先程の冷たい視線のような雰囲気は微塵も感じられなかった。
「いや〜、まぁ驚いたけどね〜。…君、アレだ。…そう、女優向いてるんじゃない?」
「は?」
破顔する彼女。口をポカンと開けて正直マヌケだ。
「いや、ね。レティちゃんがあんなに天竜人らしいの初めて見たからさ…」
「まあ、普段はこんなんですしねぇ〜」
そう言ってレティちゃんは部屋のポットでお湯を沸かし始めた。まるで普通の女の子だ。この半年で分かったのだが、彼女は普通の天竜人では考えられない程に生活スキルが高い。流石海賊船に乗っていただけはある。それで以前聞いたら「二年前には何もできなかった」と語るもんだから更に驚きだが。
「あ、砂糖は入れます?」
天竜人に茶を淹れさせてくつろいでいる俺もどうかと思うけど。まぁ、いいか。
「…オークション会場では大変だったねぇ」
彼女が席に着いたところで意地悪くそう言ってやると案の定、しかめっ面をして、目線を逸らした。
「ああ…。全部、知ってますよね……」
当然、黄猿や海兵達、バーソロミュー・くまから聞いて全容を把握している。彼女が関わったことのある海賊達の内、キッド、麦わら、ハートがその場に居合わせ彼らに正体が知られた。そしてレティちゃんは人質として麦わらの一味に連れられ外に出たもののキッド海賊団とハートの海賊団をパシフィスタから守るために帰ってきた。
帰りたくもないであろう世界に。
「…まあ…ね。俺はレティちゃんの事気に入ってるからもちろん君の幸せを願ってる。君はこっち帰ってきて良かったのか?」
「…私、ずっと外の世界に憧れてました。でも、大切な人ができてしまった今、彼のいない自由なんて意味がなく思えてしまうんです」
カップを机に置きながらそう言う彼女。ひどく、弱々しく小さく感じた。やはり、オークション会場の件が原因だろう。
「…俺が言うのもなんだけどさ、レティちゃんが天竜人だって知ったって嫌う人はそんなにいないと思うんだけど…。どうなのよ」
彼女は自分が天竜人だと知られるのを極端に恐れている。正確には、知った人達からの嫌悪を。
「だって、天竜人ですよ?クザン大将だって知ってるでしょう?三十年近く前に世界貴族の資格を捨てた彼らがどうなったか」
もちろんこれも知っている。
つい先日までじゃじゃ馬だと思っていたこの少女を不意にただの小さな少女だと思えたのは不思議ではないのだろう。
目の前にいるこの少女を守りたいとさえ思った。
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