HQいろいろA

□不幸の手紙
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 山口が尋問をする前に月島がはっきりと否定した。山口だけではなく、言われた影山も意外そうな顔になった。
 月島が影山を庇うなんて考えられないことだ。


「なんでそう思うの?」


「よく見ろよ」


 山口の手から奪い取った手紙を、月島は再び堂々と掲げ、影山を指差した。


「こいつこんな綺麗な字書けないから」


「あ、そっか」


「"あ、そっか"じゃねえよ何速攻で納得してんだ!────お前もニヤニヤすんな!」


「ぐえ!」


 とばっちりを受けた日向が吹っ飛ばされる。


         ○

「不幸の手紙!?おお、懐かしいなおい!俺が小学校のとき女子の間で流行ってたぞ!」


 西谷は目をキラキラさせて、月島の不幸の手紙を読んだ。


「気にすんな、こんなの人数合わせだ、合コンみたいなもんだ!」


 月島はいつもの調子で吹き出した。西谷の口から合コンなんてお笑いだ。


「西谷さん合コンなんて知ってるんですかあ?」


「はは、そりゃそー………」


 笑う田中の横顔をボールがかすめて行った。みんな不幸の手紙に夢中で、飽きた影山が打ったサーブはぎりぎり田中を透かして、その奥に立つ月島の顔面に直撃した。
 さしもの月島もボールを顔に当てられてシニカルに気取っている場合ではない。堪らず悲鳴を上げた。


「だずっ!!」


 ──────だず?


 やや変わった悲鳴に首を傾げながらも、ネットの向こうから人が集まってくる。


「ツッキー大丈夫!?」


「…………ってぇ…………」


「影山。謝れ」


 日向につつかれた影山が、言いにくそうにもごもごと謝った。


「……悪い」


「不幸だ」


 山口の思いがけない一言に全員ぎょっとした。


「不幸の手紙の効果だ……」

 うわ言のように口走る。ずれた眼鏡を直し、月島は山口を睨んだ。


「やめてよ演技でもないな」


「ごめん、ツッキー。でも……」


「まだ期限じゃないだろ」


 気を取り直し、スタスタ歩き出した月島の足は思いきり雑巾を踏んづけた。遠くにいた潔子が「あ」と声を上げる。


「ごめん。そこ雨漏──」


 真相がわかる頃には、月島はもう転んでいた。足が天井へ向けて跳ね上がり、無言で尻から落ちた。膝の上に雑巾がばさりと落ちる。

 月島はただ呆然と眼鏡の奥の瞳を濁した。



「これはダメだ。これは不幸だわ」


 腕組みし、菅原がしみじみと呟いた。



         ○


 翌朝。いつもより30分早く目が覚めた。隣からの騒音が酷い。驚いて窓を見ると、見たこともない女性が朝もはよから布団を叩きまくっている。
 寝ぼけた目を細め、月島は女性に尋ねた。



「すいません……」


「は!?」


 居丈高な調子に眠気はすっかり吹き飛んだ。


「越してきたんですか……」
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