HQいろいろA

□不幸の手紙
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 朝の下駄箱は思春期を謳歌する学生の声でかまびすしい。特に、朝練のない生徒の朝はこれからで、はや数時間前に朝の眠さも挨拶も通り越した運動部は既に昼の顔だった。


「おっはよー山口」


「おっす、おはよう」


 通りすぎていくクラスメイトに愛想よく振る舞う山口とは対照に、月島は淡々と下駄箱を覗いた。月島の靴箱は身長には少し苦しい位置にある。

 身を屈め、ごそごそやっていると背後から山口の頓狂な声がした。


「ラブレターだ!」


「え?今時?」


「だってほら、そこ」


 確かに上履きの上に封筒が置いてある。CGで張り合わせたように白く浮いていた。


「やったね、ツッキー」


「気味悪いだけじゃん」


 バリッとその場で封を切る。1枚の便箋に、黒い小さい文字が転がっていた。







 ────この手紙を一週間以内に4人以上に送らないとお前は不幸になるだろう。



「……………………」


「……………………」


          ○


 珍しく影山の教室には日向がいた。菅原から教えられたサインのメモとシャーペンを持って、何事か喚いている。


「なあなあなあ、これは?これとこれが覚えらんねーの」


「覚え方にコツなんてないだろ」


 トン、とこめかみを指で突く。


「ここだ、ここ」


「うわ!なんかすっげー頭良さそうな言い方……勉学に関しては俺と同類の癖に……」


「なんか言ったか」


「言ってない言ってない」


「大体」空になったパックを教室隅のゴミ箱に放り入れた。

「サインってのは意思表示を簡略化したものだぞ。それを更に簡略して覚えようなんて逆に遠回りだ」


「う……うん……」


「気合いで覚えるしかないだろ」


「影山!」


 山口が呼んでいた。ちらっと月島のような物体も見える。今日はお客さんが多い日だ。


 廊下に出てきた影山に山口は例の手紙を突きつけた。


「これ!」


「んん?」


 影山はそのまま、日向は少し背伸びをして、目を皿のように注視した。


「なにこれ、不幸の手紙じゃん」


 日向が呟く。「山口が貰ったの?」


「違うツッキーだ!」


「山口うるさい……」


 二人は驚かなかった。ああ……と低い相槌を揃える。


「日頃の行いだな」


「だな」


「ツッキーの日頃の行いが悪いって言うのか。ツッキーが女子にモテるからって、嫌がらせしたんじゃないの」


「えー、お前モテるの」


 日向が心底驚いて月島を見上げた。この反応だけで犯人ではないのが丸わかりだった。


「くっそー、なんでも持っていきやがって」


 ぎりぎりと悔しがる。山口は横でぼんやりしている影山を見た。むしろ日向より月島を嫌っているのはこの影山だ。



「こいつは違うよ」
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