HQいろいろA
□グッドマナー!!
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強いチームになって欲しいのは勿論のこと。だが、強いだけではなく内面も磨かれた素晴らしいチームになって欲しい。
「僕は、この賞にはどんなMVPより価値があると思っているんだ。負けても誇りを失わない、美しいチームの証明ということになるからね」
「美しいチーム……」
他人の言葉を受け入れやすい日向は、早速放心してうっとりと呟いた。
「 でも、それなんで俺らに?」
「ん?ん?んん……」
田中の素朴な質問に、饒舌だった武田は急に歯切れ悪く眼鏡を曇らせた。
きょとんとする四人から視線を逸らし、本音を胸の奥にしまいこむ。……言えない、バッドマナーしそうな連中に釘を刺してるなんて、口が裂けても言えない。
「それはですねえ……」
『それは?』
「君たちに、グッドマナーを率先して行う代表になって貰いたい!その素質が誰よりもあるからです!」
(な、なんですと──────!?)
見えない雷が四人の全身を直撃した。俺たちに、誰よりも素質があるとな!?
「ほ、ほんとですかあ?」
アワアワしながら尋ねる日向に武田は鼻の穴を広げて頷いた。ちょっと言い過ぎた感が否めないが、もう後には引けない。
四人は黙って背を向けた。背筋が奇妙に伸びている。
「行くぞ、諸君」田中は口調まで変わっていた。「これから帰ってボール磨きだ」
「アイアイサー!」
共々は軍隊のように規則正しい足運びで職員室を出た。思った以上にやる気を出してくれた生徒を武田は万感の思いで見つめたのである。
○
体育館に入った大地はまず靴を脱いだ。脱いだ靴は入り口のドア付近に散りばめておいても盗られることはない。いつものように脱ぎ捨て、体育館の床を踏んだ途端ホイッスルが鳴った。
「なんだ?」
笛を咥えた田中が横滑りで颯爽と現れる。
「大地さん!靴!」
「ああ田中。靴がなに?」
「ちゃんと綺麗に並べて向きを揃えてください」
ふんっ、とガンを飛ばす。が、普段から田中の威嚇など全く意に介さない大地は朗らかに笑った。
「新しい遊びでも思い付いたのか?面白いねえお前」
「遊びじゃねえッス!!」
「ええ?」
「はいはい。揃えるんだろ?」
大地がいぶかしんでいる間に、遅れてやって来た菅原が自分と大地の靴を揃えた。菅原は結構面倒臭がりな部分がある。なにも言わず一旦受け入れてから、
「急にどうしたんだよ。お前らしくないぞ」と聞き直した。
「そりゃあもう、グッドマナー番長ッスからね」
「グッドマナー、番長?」
「なに?その、だっさいネーミング」
「え、大地さんそんな……」
「こるぁーーーお前らぁああ」
甲高い巻き舌が轟く。次のターゲットは月島と山口だった。西谷が持ったアンテナでビシビシと床を叩いた。
「他の部員とすれ違ったら挨拶だろうが!」
「え……でも全然知らない部活の人ですよ」
曇った声で一応月島が抗議する。
「関係ねえ!人と人とがすれ違ったらまず挨拶!基本だろうが」
「はあ…………」
言いつつも、なんだか納得していない様子が手に取るように伝わるが、肝心の西谷には伝わっていない。
「大きな声で、笑顔だかんな!」
「はーい……」
深く関わるのを恐れ、二人は足早に身支度を整えて倉庫に入った。
倉庫では、日向と影山がボールをせっせと磨いている。