HQいろいろ@
□最強、ウシジマくん
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「あーいたいた。まだ見てんのか」
一向に現れない二人を心配して、田中を筆頭にメンバーが戻ってきた。返事もそこそこに身を乗り出している日向と影山を見た西谷が「もしかして、盛り上がってんのか?大逆転かぁ?」と、わくわくした調子で聞いた。ただし、そんなわけないじゃんという一種ドライとも取れるニュアンス混じりである。
「はい。あの、変な風に」
「変な風?」
「審判が変です」
「ええ、嘘」
もう一度手すりに勢揃いする。二回のジャッジミスで加点した相手方と白鳥沢からの沢の点差は今のところべらぼうに開いてはいない。
ネット際、空中でボールの押し合いになった。緊張が走る。相手は焦りかやや白鳥沢のネットに指が入りすぎている気がする。そのまま力任せに押し込んだら、オーバーネットになってしまう。
が、主審は白鳥沢のオーバーネットを取った。
「はぁあああ!?」
一斉に声が揃う。一人、バレーのルールにまだ疎い仁花だけが慌ててきょときょとした。
「日向、これって……」
「オーバーネット!反則!むこうの!」
ぐわーっと吠えかかる勢いに気圧され、よくわからないままオーバーネット……と復唱する。
「オーバーネット……」
声は右隣からした。いつからそこにいたのか、鮮やかなミントブルーのストライプが入った白いジャージに身を包んだ及川が腰かけていた。長い足を組んでじっと白鳥沢の攻防を見下ろしている。
見下ろしたまま、言った。
「相手コートの領域にあるボールを打ってしまう反則技のことを言う。ボールが相手コートにあっても手が越えていなければ、自コートにあったボールを打った直後に手が越えた場合はセーフ」
「…………なるほど。あ、ありがとうございます」
突然の解説登場に仁花は操り人形顔負けでカクカク頷く。及川はにこりと屈託のない笑顔を見せた。
「どういたしましてえ。そっちのチームにはきちんと説明できる人がいなかったみたいだからさ」
────嫌味だ!
「なんでも聞いてくれ」
親指で我が胸を指し、西谷は仁花に詰め寄った。及川徹をアテにするくらいなら先輩を頼りなさい、と鼻息を荒げる。
「はい、じゃあ次こそは」
「絶対だぞ。今度及川と口利いたら舌打ち千回喰らわしてやるからな」
「舌打ちって……地味な嫌がらせ……」
「そういえば及川さんここで何してるんスか」
呟く及川に影山が尋ねた。全く想像力の働かない朴訥とした質問に及川の首がガクンと下がる。
「お前ね。ちょっと考えたらわかるじゃん。俺バレー部じゃん今日試合じゃんここ試合会場じゃん白鳥沢いるじゃん……ここで飛雄ちゃんに問題。俺は今なにをしてるでしょうか」
少し目を見開き、影山は唇をカッパのようにすぼめた。
「白鳥沢の試合見てるんですか」