HQいろいろ@
□恋患い
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「か、影山!」
腹から正しく発声した大きな声に否応なしに足を止められた。そんな大きな声で呼ばなくても影山と日向との距離は数メートルも離れていない。
ボールを小脇に抱え、影山は振り向いた。二人を置いてみんなぞろぞろ体育館を後にする。
「あん?」
様子がおかしい。顔も赤いし、視線も迷子だ。ちょっと、と忙しなく手招きする。
「…………早く行かないと閉められるぞ」
「いいからちょっとだけ」
じれったそうに倉庫まで呼び込まれた。なんとなく気持ちが悪いので入り口からちょっと爪先を出す程度で中までは入らなかった。
「あの、あのな、俺」
「なんだよ、早く言え」
「俺──好きな子できたかも!」
(はああああああああああああ?)
別にいい。なんでもいいこの男の好みがどんなものだって。ただ、わざっわざ自分を呼び止めて、倉庫まで引っ張って、顔赤くして、言いたかったことが──これ?
「な、なんだその顔!やめろバカにすんな!!」
自分がどんな顔をしているか知らんが日向の慌てぶりを見るに、相当舐めきった顔をしているんだろう。いやいやいや、知らんがな。
「お前それ俺に言う必要ある?帰る時間5分遅れたじゃねーか人生分の5分とっとと返せ」
オラオラオラと跳び箱まで追い詰めたら日向は勝手にひっくり返って勝手に落ちていった。
自力で這い上がり、マットにしがみつきながら日向はなおも叫んだ。
「俺、どうすればいい!」
「知るか告れ、告って玉砕してこい」
「なんで玉砕って決めつけんだよ!」
「相手が誰だかわかんねえのに希望で胸一杯なことが言えるかー!」
「谷地さん!」
「…………は?」
「谷地、さん……」
一度目は勢い、二度目は恥ずかしそうに日向はぼそりと俯いた。
「…………部内恋愛?やらしいなお前」
「社内恋愛みたいに言うな」
それで自分に、納得とまではいかないが一応部活という一本の線は通った。「キッカケは?」と先を促した。
「は?」
「キッカケがあるだろ」
「ない」
「はあ?普通あるだろ、なんか喋ってるうちにこれだ!って思ったとか、意外と可愛かったとか!」
「ない。この前谷地さんとクラスの男が喋ってるの見た。俺のこの辺……」
自分の胸をそっと抑える。
「すげーチクッとした」
あまりにもロマンチックな顔をするもんだから、それ以上キモいとかウザいとか言えなくなり、静聴した。
「そうだよな。谷地さんの世界は部活だけじゃねーし」