HQいろいろ@
□slave of LOVE
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「…………そうかもしれないな」
立ち上がると彼女は急に焦りだした。鞄をよっこらと担いで部屋を出る徹をバタバタ追いかけてきた。
「見送ってくれるの?やっさしーい」
「待って及川くん!怒った?」
徹は目をぱちぱちさせて、追いすがるクラスメイトを見下ろした。はて、なんのことやら。
「別れるとか言わないでしょ?」
「おかしいな。フラれたのは俺だと思ったんだけど」
「フるわけないでしょ!」
鬼のような顔で吠えかかる。何故ここに来て別れてなるものか、と執念を燃やすのか謎だ。
手を伸ばし、彼女の額に親指をおいて前髪をすいた。
「まあ、いいじゃん」
「なにが!」
「ごめんね、印象と違って。あと寝落ち」
ギクッとした顔になる。
「ううん、いいの!及川くん疲れてたんだよね!あたしもちょっとワガママだったなーって!だから……」
「俺は君の化粧がとれかかった顔印象的で好きだよ」
耳元で囁いた。げっ、と彼女が自分の顔面に集中した隙に、玄関を開けて外へ出る。背後でなにやら聞こえるがもう構わない。
「お邪魔しました」
最高の笑顔で手を振った。
敷地を抜けた途端、夜なのにむっとした熱気に包まれた。思わず独り言が漏れる。
「あつ」
大きな大きな生あくびをひとつして、のんびり家路に着いた。帰ったらもう一回寝ようと心に決めて。
○
青葉城西高校。いかにも私立ですと言わんばかりの白い制服が目印である。数ある部活の中で特に男子バレーは優勢。強豪中学校から沢山の選手がわらわら集まってくる。
徹はその"わらわら"を束ねる主将だ。顧問からも後輩からも厚い信頼を受けている。それは徹から溢れ出るカリスマ性によるところ大であったが、それだけではない。
徹は自分が主将に相応しいオーラを持っていることは重々承知している。だが、そんなもの1つではいつか瓦解することも知っている。掌握しているぞ、ちゃんとわかっているんだぞ、ということを見せつけていかないと、真の心服など有り得ない。
個々の心中、癖、全てに注目してきた。敢えてだ。そんなことしてる暇があるなら自分の練習をしたい時もある。それらを犠牲にしてでもチームを1つに纏めることは重要であると判断した。その為なら努力は惜しまない。
──俺にカリスマがあるからみんなが俺に平伏すんじゃない。俺がみんなの為に尽くしてみせる。そうすれば、みんなが俺についてくる。
「おはよ、岩ちゃん」
前を鬱蒼と歩く黒い頭に声をかける。幼馴染みでバレー部の岩泉が険しい顔で振り返る。
「……おう」
「岩ちゃん風邪?」
「なんで、ズビーッわかるんだ」
「顔色悪いよ。無理しないで今日は病院行ったら?」