HQいろいろ@

□slave of LOVE
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 遠くで声がする。

 あの歓声には聞き覚えがある。自分だけに向けられたものじゃない。可愛い後輩たちが自分を鼓舞してくれる声、相手方の応援、別のコートの声援、第三者の野次。


 もはや当たり前と化しているBGM。あの音なしでは戦えない。凄いサーブを打てば膨れ上がり、ミスをすれば反対側が盛り上がる。

 黙らせることができるのは、ホイッスルだけ。


 (まだだ!)


 はっ、と目が覚めた。体育館に──いる筈がない。部屋が暗い。今が何年何月何日なのか全然わからない。とにかく今は何時だ?と枕元を一生懸命探ったがどうしたことかいつもそこにある筈の目覚まし時計すら見つからない。


 しばらく天井を向いたまま手だけバタバタしていたら、「及川くん」と名前を呼ばれた。


「!?」


 ぐるっと首を回転させると、クラスメイトの女子が髪の毛を必死でとかしているところだった。ぺたんと膝から下を外に折り曲げる座り方で、化粧が半分落ちたよれよれの目が徹を見ている。


 ようやく理解した。ここは彼女の家だ。だから目覚まし時計が見当たらなかったんだ。

 奇妙にホッとし、徹は薄く唇を開いて微笑んで、優しい視線を彼女に当てた。が、彼女は無反応だった。なんだか抱く前より冷たい気がする。まあ、気にしない。


 むっ、と腹に力を入れて上半身だけ起き上がる。寝過ぎて疲れた。顔を覆って首を振る。一応傍に座った彼女の肩を抱き寄せて甘えたふりをした。


「ごめん、俺イビキかいてた?」


「ううん。うなされてた」


「嘘っ!?」


「ほんと。うー、うー、もういっぽーん」


 彼女が冷たいわけがわかった。完全に引いているのだ。

 いちゃいちゃするような雰囲気でもなくなり、徹はすーっと回した腕を引っ込めた。彼女がじろりと睨む。


「やることやったらさっさと寝ちゃうんだね。なんかもっと気配りのできる人かと思った」


 徹は黙りこんだ。正直、深寝入りのせいなのか、やることやったことも、その後すぐ寝落ちしたのかどうかも覚えていない。彼女が指摘するよりもっと酷い事態になっているのだ。

 ただただ、よく寝た。


 言い訳も思い付かず、黙ってシャツに腕を通す。

 黙々と着替え始めた徹を彼女は信じられん!という顔で眺め回した。だって、一人で裸なんて格好悪すぎる。


「帰るの?」

「もう一回する?」


 いよいよ彼女がうんざりした顔になった。わかりやすいな、と徹は苦笑した。身仕度が整うと、ぎゅっと片手で彼女の頬を掴む。


「ごめん、今のは悪い冗談」


「……言っていいことと悪いことがあるでしょ?及川くんってホント印象と違うなあ」


 印象なんて。

 知らんがな。
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