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□大地ガエシ
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────大地ガエシ。
烏野高校排球部の話題は一日この話題である。
「まさかあの大地さんが……」
「風邪で寝込むとはねえ……」
主将・澤村大地のいない体育館はなにやらひっそりと寂しい気がした。副主将の菅原が号令挨拶する姿も新鮮で違和感がある。
つまり大地ガエシとは、大地が引っくり返るような凄い風邪が流行っているぞ、ということだ。
「お前らも気をつけろよ」と、田中が言った。彼は部の噛ませ犬的な役割を担っているにも関わらず、わりと冷静な処し方と受け答えをする時がある。
「腹なんか出して寝るんじゃねーぞ」
何故か日向を真っ先につつく。それを見た月島と山口がクスッと笑った。
「だ、出してねーっす!出てるんです!」
「馬鹿。それを出してるって言うんだよ」
「大丈夫ですよー」
まだニヤニヤしたまま、月島は井戸端会議の主婦よろしく手を振った。
「ナントカは風邪引かないって言いますから」
「んあー!!馬鹿って言った!」
「言ってないよナントカって言っただけ」
「やめろっつーの」
飛び付こうと前へ出る直前止められた。額を田中の手で抑えられ、雑に引き離される。
「スガ、見舞い行くのか?」
テーピングを懇切丁寧に巻く菅原は、旭の問いに視線を伏せたまま、うん、と頷いた。
「そのつもりだけど。お前は?」
「俺も行く。なんつーか、大地が風邪ひいてる姿想像できなくてな。一回見ときたいわ」
「それな」
「俺たちも行くか?龍」
「全員で押しかけても大地さんの迷惑だろ」
「ああ。そうか……」
なんとなく日替わりで行くか?的な空気が流れる。しかしよくよく考えてみれば、順番に見舞いを回してるうちに大地の風邪が治るかもしれない。いやむしろそっちの可能性が高い。
大地は言わないだろうが、「こいつは見舞いに来てくれた。あ、こいつは行かなかった」というチーム内格差が生じるのはそれぞれの沽券に関わる。
「大地はそんなこと言わないって。お前ら考えすぎ」
太い眉を下げ仏さんよろしく菅原は笑ったが、誰もハイ、とは言わなかった。
「で、どうする」と具体的な話を進める。
「えー、マジで行く気?」
「やっぱ土産はかかせねえよな」
一年坊主どもは揃って顔を見合わせた。
「土産ってって、なんかいるんスか」
代表で尋ねる影山に田中は呆れ顔になった。ぐりぐりと人差し指と親指で顎をしゃくりつつ、
「手ぶらで行く気か?」
逆に尋ねる。もう一度顔を合わせ、今度は山口が「あ、はい」とピンボケした相槌を打った。