HQいろいろ@
□影日向に咲く
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今が一番だったらどうしよう。
君がいなければ一人では生きられないかもしれない。
くだらないことだってのはわかってる。
だから気にしないで欲しい。
○
「菅原さん」
鼻のあたりでタオルを押さえた菅原の目が「なに?」と尋ねる。日向はボールを差し出し、「トス、上げてください」と言った。
「いいけど」
と言いつつ目が影山を探している。影山はすぐ近くで氷をボリボリ食っていた。
「俺でいいの?」
「はい。よろしくお願いします!」
やり取りは聞こえているのか、ちらりと日向を一瞥したが、なにも言わなかった。そういうこともあるだろう、という程度なのだろう。
「オープンから」
「俺は影山じゃないから、変な方に飛んでも知らないよ」
「うすっ。大丈夫です!」
謙遜しながらも飛んできたボールは美しい山なりだった。
「次、Bお願いします!」
「オッケー」
トスの難易度が上がる度に違うと思う。自分の手に馴染んだトスはもっとここぞというタイミングで、まるで最初から1つだったみたいに、
(俺の手に返ってくる感じ……)
考え事をしていたせいか、打ったら文句のつけどころないアウトになった。いつの間にか反対コートでレシーブ兼ボール拾いをしてくれていた西谷が「アウトー」と添える。
「悪い、今の低すぎた」
「いいんです!試合では……精密なトス求める方が、おかしい……」
普段自分がしないような、含みのある言い方に日向自身も尻すぼみになった。菅原はきょとんとしたが、「そう?」と、それ以上は突っ込んでこなかった。
「よーし、休憩終わり。コンビやるぞー」
既に位置につく日向と菅原と西谷の周りがガヤガヤとし、ボールかごの車輪が床を擦るうるさい音が響く。
セッターが二手に別れ、アタッカーは左、真ん中、右、と順番に八の字に周りながら打っていく。
旭の豪速球を西谷は綺麗に手首より少し上に当てた。
「旭さあん!俺に簡単に取られてるようじゃ駄目ですよ!上には上がいるんだから」
「はい……すいません」
旭がよろよろとネットをくぐっていった直後に日向が続く。これはクロスに離れすぎていて西谷は見送った。
「ナイスキー!」
「日向、角度は?」
「全然いい!」
打ってネットをくぐる間に様々なやり取りが高速で行われた。もう慣れたもんだ。短い言葉と簡単な視線のやり取りで、お互い了承したのかそうでないのかわかる。
余計なことは考えたくない。今目の前のことに集中しろって誰かが言ってた。集中すればするほど、なんだか寂しくなってくる。
しかしこれは一時の気の迷いだ。だからお前には悟られたくない。
「なー山口トス上げて」