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□月島からのクレーム
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 午後7時。あと30分で練習時間終了というところで主将の澤村の号令がかかった。


「今からミーティング始めるぞー! あれ、影山はどうした?」


「便所」

 日向がすかさず応えた。嫌そうな顔をしたのは隣にいた月島である。眼鏡を押し上げる仕草で「君さあ」と切り出した。



「なんで便所って言うの」


「んあ?」


「だから、トイレかお手洗いって言いなよ。汚いから」


「はあああ?」

 
 鼻から頭に抜ける声で日向は盛大に顔を歪めた。前々からこの月島という奴は思春期男子にしては主婦のような几帳面さを持っていると思っていたが、ついに下の話にまで浸透してきた。


「どっちだって同じだろー? いいじゃんかよー!」


「嫌なんだよ」と繰り返す月島の口ぶりは、どうも思い付きで言ったことではない様子が伺えた。


「試合でお昼食べるときも横を大きな声で便所便所って。安易に想像させられる、こっちの身にもなって欲しいんだけどね」


「だから一緒じゃん。わかったよお昼のときは声小さくする」


「そういう問題じゃない。便って聞いただけで嫌な気分になるから極力オブラートに包んで欲しい」


「ツッキーずっと我慢してたもんね」


 イシシと笑う山口に、日向はわずかに意気消沈した。我慢させていたとなると申し訳ないような気持ちになるが、だからって……。


「そんなの急に変えられねえよ! 俺はこれからも、便所! って、言う」


「だからなんで強調すんの!」

         ○

 そこへ影山が便────もとい、トイレから帰還した。律儀にハーフパンツのポケットからハンカチを出して丁寧に拭いている。


「影山!」

「ん?」

 日向は月島を指差して喚いた。

「行け影山! アイツに100万ボルトだ!」


「人をモンスター扱いするんじゃねえよ。どうした」

「王様からも言ってやってくんな〜い」

 だらりと腕組みし、月島は日向と影山二人まとめて見下ろした。


「相棒の下品な言葉遣い」


「……下品?」


「影山さ、用を足す場所のことなんて言う?」

「……は」

「だからあ! 便所とか、便所とかトイレとか色々あるだろ?」

 今便所2回入ったよな……という田中の呟きは風に流れて消える。影山はぼんやりと目線だけ上を向き、笛でも吹きそうに唇を尖らせた。


「わからん」

 頼みの綱の影山の有り得ないほど頼りない返答に、日向はもろに首を落とした。そうとは知らず影山は延々と考えている。


「便所? いや昨日なんか違う言い方したような……そもそも、言葉に出すことなんて、そんなないだろ」


「どっちだっていいじゃねーか自分達の好きに呼べよ」

 埒があかん、と西谷が呆れてトドメを刺した。刺しても一度気になったことから中々抜け出せないのだ今年の一年坊主たちは。


「ほら、もうおしまい。月島も絡むなって」

 割って入ろうとした菅原に日向はすかさず「菅原さんは?」と聞いた。


「あ、俺?」
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