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□清水潔子さんの日
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時刻は夜の8時前。バレー部の部室はお世辞にも誉められない汗の匂いが充満していた。1日の練習で吹き出たものをそんじょそこらの制汗スプレーやファ●リーズを撒き散らしたところで無駄無駄無駄である。全員同じ匂いだから激臭に気づかないという悲劇も生んでいた。
「わ」
「どうした?」
日向自身ですら引いたような呟きに、菅原が反応した。
「これ」
「なにこれ」
「俺の靴下です。2週間前のや」
「うわクサ!!おえーっほ!げほ!」
日向の台詞が終わらないうちに菅原は盛大に咳き込んだ!ほんのちょっと、先っぽだけ鼻に近付けただけなのに、である。
それを見た影山、山口、月島が無言で一斉に自分の鞄を隅っこへ引きずって日向から距離を取る。
「な、なんだよお前ら!」
「寄るなパラサイト」
「パラサイ……うへえ」
「日向くせ〜よ〜」
ようやく咳上げから復帰した菅原にたしなめられる。ぶらん、と日向は靴下を指先で持ち上げた。
「ずっと探してたんだけど見つからなくて」
「それで放置ってどんだけズボラなんだよ……」
山口が心底嫌そうに呻いた。返す言葉もなく、ひとまず靴下を脇に置いて、タオルの匂いも嗅いでみた。
「あ、こっちはまだ洗濯物の匂いが残ってる」
「タオルは清水がマメに交換してくれるからなあ」
大きな身体に制汗剤を振りたくりながら旭。
「へいへい諸君」
奇妙なノリで田中と西谷が前に出る。みな帰り支度の手を止めて、二人に注目する。
「明日がなんの日か、わかってるだろうな?」
明日?
「わかった!」颯爽と日向は手を上げた。「色の日!」
「違う!」
「ケーキの日だろ?」
「大地さん残念!」
「はい」
「おお月島!」
「佐久鯉誕生の日」
「なんだよ佐久鯉って誰だよ!」
「誰っていうか、鯉です」
「とにかく違うそんな難しいことは聞いてねえ」
不甲斐ない連中の回答受付を締め切った田中はググッと握り拳を作った。
「明日は──明日はなあ」
『明日は?』
「……潔子さんの誕生日だ」
ぽっ、とガラにもなく頬を染める。全員ふ〜んと一斉に鼻から息を吸った。
「そうなんだ」
「知らなかったな〜」
「ちょっと待てお前ら!!」
バラバラ帰ろうとしたらもう一度呼び止められた。
「俺たちの男子力が試される日だぜ」
燃えたぎる瞳で、西谷は両手を広げた。
「なんスか。男子力て」
うすらぼんやりと影山が尋ねる。よくぞ聞いてくれました、と西谷は自分より随分高い位置にある肩を掴んで頷いた。
「俺たちは日々潔子さんから発せられる清廉潔白なオーラに癒されて生きている」
「俺は水と酸素ッスかね」
「清廉潔白なオーラだ」西谷は怖い顔で言い直した。影山には今ひとつ通用していない。