HQいろいろ@

□悪夢
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「烏養さん」

 驚いて出迎えてくれた澤村の片腕には子供がいた。彼は普通に年をとり、結婚して幸せな家庭を築いているようだ。


「お久しぶりです」

 礼儀正しいしっかり者なところも健在である。烏養は安堵した。


 (なんだよメチャクチャとか言いやがって……)

 少し太った澤村はあれこれとその後のことなどを話してくれた。聞くと、彼はまだバレーを続けているという。

「ソフトバレーです」

 地区のママさんを集めてソフトバレーの指導者をしていると言った。ソフトバレーは四人体制の柔らかいボールを使って行う。

「そうか。頑張っているんだな」

「はい。正直今の方が楽しいですね。だって、ママさんみんな下手くそでしょう。俺が絶対一番上手いんですよ。よそ行っても俺を越える人はそうはいない。それが気持ちよくて」

 溌剌とした澤村の口調が段々棒読みになっていく。

「澤村……?」

「周りに強い奴ばっかいる環境とかもう沢山。チームプレーとか綺麗事で、俺だけがカッコ良くお山の大将出来るって楽しい! ははははははは」

「うわあああああ!」

 澤村もおかしくなってしまった。あんなにフェアで向上心のあった澤村が!

 無我夢中で走り出した。後ろの澤村の家ばかり見て走っていたら、前方からフラフラ歩いてきた人とぶつかった。

 尻餅をつき、目深に被っていたパーカーの帽子がはらりと後ろに倒れる。


「影山!?」

 烏養の声に反応し、顔を上げた影山はヒッと呻いて後ずさる。明らかに顔つきは烏養の知っている影山ではない。

「来るな!アンタにはもう敵わないから!」

「おい、どうした!」

「来る、来る、及川さんが来る!!」

「しっかりしろ俺は烏養だ!烏養繋心だ!」

「来るな及川ーーーー!!」

「あで!」

 右ストレートをお見舞いすると、影山は走り去った。
 痛む頬を押さえ、果たしてあれは本当に影山だったのかと烏養は彼の消えた方角をまじまじと見つめた。まさか、あの唯我独尊を地でいっていた影山が、及川の幻影を見ているなどと──


「こりゃ、他もヤベェかもな……」


 残りのカラスたちの行方を追わなければならない。
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