HQいろいろ@
□悪夢
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ファイナルセットまで持ち込ませ、脅威の粘りを見せても青葉城西を破ることは叶わなかった。
よくやったとも思うし、実力以上の力を出せたと思う。計算上では負けて当然だったかもしれない。
それでも納得なんかできるわけがない。
────あれから10年…
いつもと変わらない坂ノ下商店。変わったのは人気商品のラインナップくらいだろうか。はたきで掃除する烏養の背後で、改造しまくったバイクが排気ガスを撒き散らして止まる気配がした。
パラリラパラリラ
ちっと舌打ちし、はたきを片手に扉を開く。
「おい。誰だか知らねーがまだ開店前だ。近所迷惑になるから音止めろ」
「あぁん?」
2ケツして凄んだ男たちを見てギョッとした。彼らはかつて烏養の指導のもと、全国を目指した烏野男子バレー部の田中と西谷ではないか。
烏養が気付いたのは西谷を見たからである。相変わらず小さく、髪の毛を逆立てている。目付きはすっかり悪くなっていた。つまるところ、前に座っているロン毛はたぶん田中なのだ。
よく見れば後ろにもバイクが続き、縁下、木下、成田っぽいのもいる。
田中は手にバットを持っていた(バレー部だったのに)。
「あらよ!」
突然外に出してあったアイスボックスを叩き割る。
「ちょっと待て! お前らなんてことする!」
立ちはだかる烏養に田中はペッとガムを吐いた。
「復讐だ」
「復讐?」
「アンタが俺たちを全国まで導けなかった。お陰でみんながおかしくなった。復讐だ」
西谷が菓子の棚を蹴っ飛ばす。ガムやグミが大量に散らばり、更にそれを足蹴にした。
「復讐ったって、10年前のことだぞ」
「俺たちには昨日と変わりねえ!」
そうだ。年月なんかじゃない。俺だって忘れているものか。無念だったこと、導いてやれなくて泣いているバレー部が可哀想でやるせなかったこと。
「俺の力量不足だった……許してくれとは言わないが、近所迷惑はよせ」
「今更真っ当に生きれるかってんだ!」
そう言って、田中がベッと出した舌には怪しいピアスが光っていた。完全にアッチの世界の住人になってしまったようだ。あの敗北が、まさかここまで彼らの人生に影響してしまうとは……。
「そうだ……他の連中は!」
「みんなメチャクチャだ」
西谷が吐き捨てる。
「もうあの頃の俺たちなんてどこにもいない」
走り出そうとした烏養を「待ちな」と田中が呼び止めた。
「行かして欲しきゃ」
「ボックスに入ってるアイス全部寄越しやがれ!!」
……………………変わった、の、か?
「ああ、まあ、持ってけ」
歓声を待たずして烏養は走り出した。まず、キャプテンだった澤村に会いに行く。