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□月島、部活やめるってよ
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 【金曜日】──3年──


「春高本当に挑戦するつもりなのか? あんまり言いたくはないが、インターハイの結果、そう良くもなかったんだろう?」


 澤村、菅原、旭の3人は顔を見合わせた。それぞれの視線を確認しあってから、澤村が「でも」と言った。


「俺たちは諦めてませんし、希望もあります。次の1、2年はもっともっとやってくれると思うんで、どっちみちいきなり放り出すつもりはありません」


 話はいつまで経っても平行線だ。そろそろ部活が始まる。ともかく総意を打ち明けたとして、3人はお辞儀をして職員室を出た。


「なんか思ったよりややこしくなりそうだなあ」

 職員室をもう一度振り返り、旭は無精髭をかいた。ロン毛に髭と強面のイメージ大だが、おっとりと優しい人柄である。


「俺たち曲がりなりにも3年だからなー」と、他人事のように言うのは菅原。3人の中で唯一補欠でのインターハイとなってしまったが、彼はともかく冷静だった。頭を使うことを知っている。


「3年なんて、あっという間だな」

 窓の外の景色を見る。既に練習を始めた野球部が、バットでボールを打つ小気味良い音が響いていた。この光景はなにも今に始まったことではない。1年のときも見た。あのときにバットを振っていた人物はもしかしたらいないかもしれないけれど。


「あの呑気な日向たちもさ、いつか俺たちと同じここに立って、進路のことで部活制限かけられたりするって思うと、なんか変な感じだよな」


「想像できねー」


「誰がキャプテンやると思う?」


 盛り上がりだした菅原と旭の会話が耳に入り、澤村もようやく窓の外から視線を剥がして笑った。


「そうだな」



「俺は結構日向は向いてると思うよ。影山は……俺は春までやります! って、言いそうだよな」


 旭の予想に二人は違いない、と頷いた。


「月島も山口も、みんなそうじゃないか。アイツら今まで見たことないくらい熱い奴らだから」


「よーし、俺らもギリギリまで完全燃焼するべ〜」


 準備運動代わりにそれぞれ肘を伸ばし、体育館までの渡り廊下を歩いた。
 後ろをバタバタと人が駆け抜ける足音が聞こえた。


 【金曜日】──2年──

 体育館に響くボールの音がいつもより小さい。足元を転がるボールを片手で掴み、西谷は今気付いた様子で時計を見上げた。


「龍。旭さんたちは? 翔陽たちも」

「あー澤村さんたちは職員室で呼び出し。1年は……聞いてねえな。アイツら遅刻とはいい度胸だ」

「提出物が溜まってたりしてよ」


 縁下がぽつんと言った一言に、他2年は人差し指を集中させた。


「あるある」

「ああ、でも月島と山口はねーな」

「そういえばそうだな。先輩たちがいなくなったら、アイツら勉強の面倒見なきゃいけないから大変だぞ」


 バン!と体育館の扉が盛大に開き、山口が上履きのまま駆け込んできた。目ざとく田中が「おい!」と指摘した。


「お前靴!」


「つ、ツッキーが!」


 【金曜日】──1年──


 誰もいなくなった教室で、日向と影山だけが向かい合って鉛筆を動かしていた。
 しばらくして、影山がふと顔を上げる。


「お前行かなくていいのか、部活」

「いや俺提出ある」

「同じかよ……」僅かに不快そうにする。「すっかり忘れてたな」


「うん。だって俺、ここにはバレーしに来てるから、勉強の約束はすぐ忘れる」

「俺も」

「なあなあ、澤村さんたち辞めちゃうのかな」

「さあな。どっちにしろ、そう長くはねえよ」

「俺たちも甘えてばっかりじゃ駄目だよな。こうやって提出物書いてる間にさ、山口や月島には置いてかれるってことだし」


 せっせと鉛筆を動かし、雑で汚い字を並べるのに一生懸命で、日向は影山の視線に気付かなかった。いつからそうしていたのか、影山はイヤらしい笑いで日向を見下ろしていた。


「な、なんだその顔。なんか変なもん食べた?」


「少しはマシなこと言うようになったじゃねーか」


「なんだと! もっぺん言え!」

「実力も経験もねえのに打ちたい打ちたい言ってたお前にしては大躍進だ。誉めてとらす」

「なんで殿様みたいなんだよー! お前俺相手だからいいけど、月島相手のときは賢く言い返されるから気をつけろよ」

「それだ」


 思いの外すんなりと影山は日向の言葉を受けた。シャーペンをくるくる器用に回しながら、唇を尖らせた。


「俺はもっと、アイツとコミニュケーションを取り……」


「おおお……」


「──たくねえ」


「ガクッ」
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