HQいろいろ@

□俺の屍を越えていけ
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 ──ごめんなさい。むしろ私があなたを担いで体育館まで戻るべきところを……!とかなんとか言おうとしたら、潔子の携帯が鳴った。


「はい……あ、澤村──」


 キャプテン!頼もしのキャプテンが電話をくれた!思わず自分も携帯に顔を近付けた。なにか喋る澤村の後ろでワーワー色んな声がしてよく聞き取れない。


「清水。い…………、に、……?」


「潔子さぁあああん! 無事っすか!」


「谷地さーん! 谷地さん返事してくれよーう!」


「人が電話してるんだから黙れボォゲ!」


「え……? ごめん、よく」


 潔子が言いかけると、澤村は「ちょっと待って」と電話から一旦離れた。


「すまん。えーと、それで今どこにいる?」


 背後がびっくりするくらい静かになっていた。さっきまであんなに賑やかだった皆さんはどこでどうしてしまったのか。最初から澤村以外誰もいないかのように電話口が静まり返っているのが怖い。 


「今二階の廊下。谷地さんと二人だから大丈夫。外酷い?」


「相当酷いな。動かない方がむしろ安全かもしれないけど、心細いなら迎えいるか? 荷物こっちにあるし」


「うん……」ちらりと仁花の様子を見て、潔子は「お願いする」と添えた。


「はいはい。じゃ動かないでくださいよ」


 ぎゅっ、と腕の中のキャンパスノートを握り締める。部活以外のときに引っ張り出して、まんまと移動教室で置き忘れた。馬鹿なことをしてしまった。



          ○


「おーし、行くか」


 澤村の言葉におお、と場が盛り上がる。月島だけが盛大に顔を歪める。


「……本気で言ってるんですか」


「だってしょうがないでしょう」あっけらかんと澤村は言った。言ったが、扉を開けた先の嵐に対しては、さすがに緊張が走った。


「……行くぞ!」


「あす!!」


 豪雨の中を飛び出した。


「あばばばばばばばばばばばばば」


 渡り廊下の横から吹き付ける雨と風に押された日向は、よくわからない塊になって柱に激突した。


「しっかりしろー!」


 田中に引き戻され、しがつき、野郎同士がそれぞれ身を寄せあって邁進する姿は傍目にもむさ苦しいものがある。


「あ!」

 カチャカチャーン!


「ツッキーの眼鏡がぶっ飛んだ!」


「ちょっと大きな声で言わないでくんない……」


 全員ぎょっとして振り返る。菅原が「すげえ……」と息を飲んだ。


「なんか全然違う人に見えるなー」


「そうなんですよ。ツッキー昔から眼鏡かけてて外してる姿は凄いレアって言うか」


「もういいから先行ってよ!」


 それが、吊り橋効果で「僕を置いて先に行け」という風に脳内変換された。



「月島……」


「悪い……」


「尊い犠牲だった……」


 涙を振り飛ばして進む。渡り廊下を乗りきれば、もはやゴールも同然である。
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