HQいろいろ@
□俺の屍を越えていけ
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「日向。お前の家山奥だろ」
二人がかりでポールを担いでいたとき、後ろの影山がぼそりと言った。上手く聞き取れず、日向は「あ?」と首を逸らす。
「なに?」
「山奥だろ。帰れんのか」
「じゃねえよ!」
影山はアレ、という顔をした。なんて失礼な話だ。日向の家と学校の間には山があり、つまりそれくらい遠いっていう話であり、決して日向が山奥のド田舎で熊と暮らしているわけではない。
こやつの顔つきからして、どうやら本気で日向を山賊だと思っていた節がある。
「どっちにしろ、帰れんのか」
間違えた癖に謝りもしないで、影山はさりげなく話題を進めた。
「バカにすんなよ。今ならまだ雨が強いだけだから、これ以上酷くなる前に帰────」
バチン。と音がして、体育館の電気が一斉に切れた。闇。
「うおっ」ずるりと前側から落ちたポールを影山が慌てて抱え直す。「日向! ちゃんと持ってろ落としてんじゃねえ危ない!」
「…………停電」
「それがどうした。とっとと片付けて帰るぞ」
「谷地さんと潔子さん。まだ戻ってないよ」
「…………もう帰ったんじゃねーの」
「俺ちょっと見てくる!」
「待った」
ビターン!!
田中に足をかけられ、日向は真っ直ぐなって床に伏した。「あ、痛そう」と山口。
「日向よ」
低い笑いと、田中と西谷の二つの影が倒れる日向を取り囲む。
「一人でいいカッコしようたってえそうはいきませんよ……」
「潔子さんは、俺たちが救う」
──そして。と、二人は明後日に向かって声を揃えた。
「ありがとうの言葉を期待しつつも、スルーされる妄想に浸る」
貪欲かつ無欲。これが清水潔子の正しい崇め方なのだそうだ。興味のない日向はただのこかされ損である。
「行くぜ龍!」
「おうよ!」
ガラガラッと威勢よく扉を開いた瞬間、矢のような太い雨が降りこんだ。
「うわぁあああ!」
「お、おい」
思わずのけぞった二人を後ろから旭ががっちりと支え、事なきを得る。
「旭さん! すんません! カッケーっす!」
「いやそんないちいち言ってくれなくても……それよりヤバイぞこれ」
さっきよりも酷い。もはや嵐である。校舎の様子はよくわからないが、体育館が停電したということは、校舎もその可能性がある。
(暗闇の中でも平静を保とうと頑張る潔子さん……!!)
という妄想を展開し、田中と西谷の思考は停止した。
「電話してみる」
澤村が電話を取り出した。
○
「大丈夫? 谷地さん」
「は、はい」
潔子と肩を寄せ合いながら、谷地仁花は緊張した面持ちで頷いた。片手にはキャンパスノート。これ一冊を忘れたお陰で、潔子に大迷惑をかけてしまった。