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□大晦日の過ごし方
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 12月の末ともなると、バレー馬鹿もさすがに休みを取らざるを得なくなる。むしろ他の部活に比べると、烏野男子バレー部は粘って粘って体育館を占拠した方であった。

 今日が最後の練習日だった。バレーが抜けると特にプライベートで深い交流がない者同士は、必然的に「よいお年を」となる。


 日向と影山もそのタイプといえるだろう。


 すっかり夜も更け、寒空の下を坂ノ下商店街の明かりだけだけが頼りの道を並んで歩いた。
 自転車を引く日向の口からぱあっと白い吐息が吹いた。


「なあ、お前さ、大晦日なにして過ごすの?」


「あ? なにがだよ」


 影山がぶっきらぼうに返した。


「テレビ。俺ガキ使派! あれすっげー面白いよな。お前も見るだろ」


「別に……」と言って、影山はうろんと空中を見上げて、これまでの大晦日を想起した。


「取り合えず寝る」


「は?」


「寝て、そんで起きた時間にリビング行ってコタツ入って飯食うときに親の見てるやつを見る」


「ああ……」

「なんだ! その反応は!」

 思わず漏れた同情混じりのため息を耳ざとく聞きつけてがなる。眉を下げ、日向はしみじみと言った。


「お前って……バレー以外はほんとにつまんねーのな…………」


「なっ……!!」


 ドズガビーン!


「んだとゴルァボゲ日向! お前に言われたかねーぞ! じゃあお前のそのいつも見てる番組は面白いのかビックリ仰天大爆笑なのかああん!?」


「いやいやいや……」


 いつもなら素直に怯んでくれる筈が、どれだけ胸ぐらを掴んで揺さぶっても日向は冷静だった。どころか、影山への哀れみ度がより一層増していくのである。


「大晦日って無条件に夜更かしが許された特別な日じゃん。みんなで菓子食ってさ、なんも考えずにバラエティー見ながら笑ったりするのすっげー楽しくない? お前家族とちゃんと喋ったりすんの?」


「馬鹿にしてんのか! 会話くらいするに決まってるだろ!」


「じゃあどんな会話?」


「ぐっ」


 掴んだジャージの襟から手を離す。正直大晦日の会話なんぞ忘れた。いやだって今こいつが言ったのだ。大晦日はなにも考えずに馬鹿みたいに夜更かしをする日なのだと。なにも考えずに過ごしてきたからよく覚えていない。


 日向の大きなガラス細工のような瞳がぐりぐりと押し込むように影山に迫る。これは一歩も退かない目付きのやつだ。いやそもそも退いたら負けだ。思い出せ、会話、会話、会話会話……。


「…………、ね」


「んあ?」



「…………この歌手、……来年、消えそうだよね…………とか」
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