HQいろいろ@
□slave of LOVE
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「馬鹿野郎。練習欠かしてたまるか」
「邪魔だよ。具合悪い人が入ってたらみんなが気使うでしょ」
「くっそー!勝手に人の体調読み取りやがって気持ち悪い!!」
胸ぐらを掴まれ激しく揺さぶられる。
「うあうあうあ気持ち悪いってひどっ」
ポケットが震えた。胸ぐらを掴まれたまま指先でつまんで引っ張り出すと、岩泉はようやく手を離してくれた。
昨日の女の子からだった。なんだろう、と思いながらも、再びポケットにしまい戻す。
「出なくていいのか?」
「いいよ。どーせフラれたし」
「またかよ?相変わらず入れ替わり激しいな」
「言っとくけどさ、俺が悪いんじゃないよ。向こうが勝手に出たり入ったりしてるんだからな!?」
「はいはい。どうせお前のことだからやることやった後グーグー高イビキかいて顰蹙買ったんだろ。素が出ると幻滅されるってやつ?ほっとけ、そういう奴は"スポーツ万能なイケメン"と付き合ってるっていうステータスが欲しいんだよ」
「岩ちゃん、俺に似てきたね」
「あ?一緒にすんなクソ及川」
「ぐぐっ……俺は岩ちゃんのことクソちゃんなんて言ったことないのに」
「言わせねえよ!?とにかく、もともと不器用な癖に器用なフリするからこうなるんだろうが。今は女に集中してないんだから彼女とか作っちまったお前が悪い」
「はーい……」
○
岩泉は正しい。
自分でも呆れるくらい超絶不器用だ。何度も何度も同じ失敗を繰り返す。無駄な回り道ばかりする。焦れば焦るほど空回りしてなんにも見えなくなる。良かれと思ったことが全然良くなかった。運もない、力もない。あるのは情熱と粘着ばかり。この2つを操縦してここまで来た。
徹の劣等感が顔を出すのは決まってバレー絡みである。女にフラれたくらいでは実感しない。別に次がある。星の数ほどいる。
でもバレーに次なんかない。一回一回ごとに立場が変わる、責任が変わる、勝敗が変わる。ああなんて目まぐるしい。
バレーが好きだ。どうしても勝ちたい。言わばこれはバレーというスポーツに対する永遠の片想いだ。立ちはだかる相手はみんな恋敵だ。
だからがむしゃらに努力する。なんでもする、尽くす。勝利の女神に首ったけだ、クソ。
○
「なんだか、嫌われてる気がするんだ……」
「あ?」
「きっと、飛雄や牛若みたいなのが好きなんだろうね」
「お前」
仙台市の体育館ロビー。試合前に突如恋バナをおっ始めた徹を岩泉がたしなめた。
「またかよ!どんだけフラれたら気が済むんだ!」