学生時代

□教授に手当てをしてもらう話(擦り傷)(学生)
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「ぎゃあああ、痛い〜〜〜ッ!」

擦りむいたわたしのひざに、教授は容赦なくぐいぐいと薬を塗り込む。
毒々しい紫色の塗り薬は、白い湯気をたてながら傷付いた皮膚を修復してくれているが、しかしとにかく傷口にしみるのだった。

「うわああん、教授の鬼ー!悪魔ー!まっくろくろすけー!」
「ええぃ、やかましい!大人しくしろ!薬が塗れぬではないか」
「そんなの無理です―!めちゃくちゃしみて痛いんですってば!」
「ふん、お前がなにも無いところでスッ転んだのが悪いのだろう」
「あれは濡れた芝生に足をとられたんですよ。いくらわたしでもなんにも無いところで転んだりしません」
「ほう、」
「な…なんです?」
「先週の木曜日の放課後、ある女子生徒が地下へと続く廊下をあるいていたのだが、そやつは何故か一瞬で姿を消した――」
「………」
「が、そのように見えただけで、実際はただ転んだだけだった。障害物はなにもない廊下でだ。そ、の、時、は、幸い怪我はなくすぐに立ち上がっていたがね」

言って片眉を上げた教授を、わたしは(自分の中で出来る限りの)怖い顔を作って睨みつけた。
――が「ふん、」と鼻で笑われ、泣きたくなった(というか半分くらいは泣いていた)。



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