BOOK
□叶えられた願い 〜前編〜
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恥ずかしさを耐え、ベッドのある部屋にたどり着き、綺麗に整えられたシーツの上にそっと降ろされた。
その時、コラソンの後ろに、自分の腹心であるペンギンが共に来ていた事に気付いた。
「ペンギン…何故、この人がハートのクルーと共に居てたんだ…?」
いつもは、目深に被っている防寒帽のつばをくいっと上げ、笑みを浮かべた顔を見せ
「ある日、突然現れたんです…トラファルガー・ローの知り合いだって言って。そりゃ、いきなり現れて、船長の知り合いて言われても、信用なんか出来る訳がないんですけど…」
苦笑いをしながら、自分の腹心は答えた。
人一倍、用心深いペンギンを信用させたなんて…
この人は、一体どんな事を俺のクルーにしたんだ…?
どんな手を使ったんだ…? と、ローは目でコラソンに問いかけた…が…
それを…
「別に何もしてないぞ…? ただ、ローのクルーに会いに来ただけだ。まぁ…ドジをして、色々迷惑はかけたとは思うが…」
コラソンは、そう言いながら、隣に居るペンギンへと視線を向けた。
「迷惑っていう範囲ですか…? あれは…?」
普段、殆ど表情を変えないペンギンが、落胆ともとれるような程の呆れ顔で、コラソンに向かって呟いた。
「まぁ、そう過ぎた事はいいじゃね〜か。な…? それより…ロー…そろそろ横になれ。顔色が良くない…」
「えっ…? お、おい…」
「そうですね…少し、休めた方が良さそうですし…話は、それからででも出来ますから、今は大人しく寝て下さい船長」
過保護な2人から、反論の余地も与えられないまま、俺の意見も聞かずにさっさと決定し、コラソンに有無も言わさず身体を倒され、布団を被せられてしまった。
だが、まだ半信半疑で、信じる事が出来ない俺は…
「コラさん…お願いだ…」
側にあったコラソンの手を掴んで、躊躇いがちながらローは懇願した。
ずっと…焦がれて仕方なかった…
大好きだったこの人の優しさを…
今…その願いが叶うのなら……
「昔の様に、してくれたら…ちゃんと休めれるから…だから、お願いだ…コラさん…」
ローの中では、まだオレの存在に疑いがあるのか…
手放したら消えてしまうかのような表情で訴えるローを見て、思わず顔が緩んでしまった。
「コラソンさん…? 顔…緩んでますよ」
ペンギンからの指摘も耳から流れ出てしまう。
はぁ…とため息が聞こえたと思ったら
「コラソンさん、添い寝でもなんでも構いませんので、船長を寝かしつけて下さいね。おれは、船長の後処理をしてきます。でわ船長…また後で来ますね」
そう言って、ペンギンは部屋から出ていってしまった。
部屋を出たペンギンは、少しドアに凭れながら、さっきまでの船長の事を思い出していた。
…船長が、コラソンさんを特別な想いで大切にしていた気持ち…解る気がします。
あの人が与えてくれた無償の愛は、そうそう貰えるものじゃない。
ましてや、コラソンさんから聞いてしまった、船長の過去を知る今となったら…
彼が側に居る方が、船長も安心出来る。
彼なら、万が一何か起きても、船長を守ってくれるし…
まぁ、クルーとしては、正直…悔しい気もするが…
だが、あの人が船長を助けてくれていなければ、今のおれ達も無かったかも知れない……
おれ達を助けて、仲間にしてくれていたか……
ま、たらればの話をしても仕方ないし、とりあえず済ませなきゃいけない事を片付けに行くとしよう…
ドアの向こうの気配が離れて行くのを感じながら、コラソンから手を離さず見つめて訴えていた。
「クソガキは、いつまでたっても変わらんな…」
そう言いつつ、俺の頭を優しいその手で撫でてくれた。
「本当は、横になった方がお前の身体の為なんだろうが…そのベッドでは、2人はキツいから…」
そう言ってコラソンは、ベッドの上に上がり、ローに向けて両手を広げた。
「ロー…」
優しく微笑み、俺を呼ぶ。
込み上げてくる思いを隠す事もせず、俺は…
大好きな人の胸に身体を預けた。
…パチンッ…
『サイレント』
彼の能力を目の前で感じ…
やっと、本当に彼は、生きていたんだと実感出来た…
コラソンの腕の中に包まれ、彼の温もりと匂いを…
身体全身で確かめながら、重くなる瞼をゆっくりと閉じた。
壁に背中を凭れかけ、腕の中のローが寝た事を重みで感じ…
彼もやっと叶った願いを噛みしめていた。
「ロー…寂しい思いをさせてゴメンな…そして…兄を止めてくれて…有難う…」
ローの髪に優しくキスを送り、彼の匂いを感じながら
「起きたら、お前が聞きたい事…ちゃんと話すから、早く元気になれよ…でも今は、ゆっくり休め」
ローの温もりで、コラソンも下がってくる瞼に抵抗せず、静かに意識を落としていった…