短いお話

□ガラスの靴。 玲奈ちゃん夢。
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玲奈夢



斑鳩雪成side


「ねぇ、私のこと…ずっと好きでいてくれる?」

隣に居る彼女が、俺にそんな事を聞いてくる。

多分、今日の昼間観た映画に感化されたんだろうな。

「ねぇ?」

『…好きだよ。これからもずっと』

そう答えると、彼女は満足そうな笑みを見せ、俺の方に寄りかかってくる。

「ふふ……私も、ずっとずっと、好きだよ」

『っ……』

そんな事言われたら、どうしていいか分かんないよ。

でも……この雰囲気でする事と言ったら………一つだけだよな?

『こっち、向いて?』

顎に手を当てて、彼女の顔を俺の方に向かせる。

『好きだよ……玲奈』

そう言って俺は、彼女の唇に自分の唇を優しく押しつけた。

…………。

……………………。

監督 「カット!!!」

『???』

監督 「いやいやいやいや、斑鳩くん!彼女の名前は葵だから!本名呼んじゃダメ!w」

『あっ!すみません!!』

監督 「まったくw玲奈ちゃんだってびっくりしたでしょ?w」

玲奈 「え、あ、はい…ちょっとびっくりしちゃいました」

そう言って顔を赤らめながらも笑って話すのは、SKE48の松井玲奈ちゃん。

このドラマで、俺の彼女役を演じているのだ。

『玲奈ちゃん、本当にごめん!!』

玲奈 「あぁ、大丈夫ですよ!NGを出して大きくなれ!って、前に共演した俳優さんも言ってましたから!」

『うん、ありがとね。でも、マジでごめんっ』

俺は手を合わせてもう一度謝った。

『スタッフさんもすみません!もう一回お願いします!』

監督 「よっしゃー!次は玲奈ちゃんじゃなくて、葵を愛してやりなよー!」

『いや、監督何言ってるんですかw』

監督 「はははwじゃあもう一回行くよー!シーン23!カット1!ヨーイ、アクション!」


夜。

『やぁぁぁぁーーー………っと終わったぁぁ!!』

家に帰ってきた俺は、すぐさまベッドに横たわる。

あの後、違うシーンで2度のNGを出したが、何とか撮り終えた。

『やっぱ自分のせいでカットかかると、落ち込むなぁ〜』

自分の演技力の未熟さを、思い知らされた。

巷では、若手イケメン俳優などともてはやされているが……実際はそんな良い物じゃないさ。

確かにまだ若いさ。

顔だって、カッコいいって言ってくれる人もいるよ?

でもね、俳優としてはまだまだ。

これから頑張っていかないと、すぐに出れなくなっていく世界だから。

でも、だからこそやり甲斐があるんだけどね。

あるんだけど……やっぱり、ちょっとヘコむ。

『うぅ〜………今日だけは…ヘコませてください………』

俺はそう呟いてから枕に顔をうずめると、スマホにメールを知らせるメロディーが。

『んん〜、誰ですか……』

スマホを手に取りメールを開くと、差出人は意外な人物からだった。

『え、玲奈ちゃん?』

俺は起き上がり、メールを読む。

そこには、たった1行だけの文が。

(落ちこま・ω・ないでね)

とだけ書いてあった。

『ふふ。本当にいい子だなぁ』

このドラマの撮影で初めて会ったんだけど、最近ではかなり仲の良い友達になれた。

同い年で、更には同じく演技を生業としたいもの同士、気が合ったのだ。

俺は返信画面を出し、返事を入力する。

『ありがとね。また明日もよろしく……と、おっけ。送信』

俺はスマホを置き、シャワーを浴びて1日を終えた。




数週間後。

松井玲奈side


『よいしょ…じゃあ、行ってきます』

靴を履いて立ち上がり、私にそう言ってくる。

「あ、ネクタイ、曲がってるよ?」

私より少し背の高い首元に手をやり、ネクタイを正す。

『ん、ありがとう。なんか…恥かしいな』

そんなことを言って、少し顔を赤らめている。

「えへへ…なんか、私も恥ずかしくなってきちゃった…!」

『ふっ、自分からやってきたのに恥ずかしがるなんて』

「もう、いいでしょ!恥ずかしいんだから」

『ふふ…じゃあ、行ってくるね』

私に向かって、笑顔でそう言ってくれる。

私は少し背伸びをして、自分からキスをした。

「っ…いってらっしゃい!」



監督 「オッケー!!」

そう言って監督さんが立ち上がる。

スタッフ 「えー、これをもちまして斑鳩雪成さん、松井玲奈さん、オールアップでーす!!」

スタッフさんの一人が、花束を持ってそう言う。

『わー、ありがとうございます!』

玲奈 「ありがとうございます!」

監督 「2人とも、お疲れ様!」

玲奈 「お疲れ様です!」

『楽しかったー!』

監督 「ははは、良かった」

それから私達は打ち上げへ。

場所は、都内にある居酒屋。

既に酔っているスタッフさんが何人もいる。

その中でも酷いのが………。

監督 「うわぁ〜!寂しいよー!!」

『ちょ、監督!飲み過ぎですってw』

監督 「だって…私の最初の監督作品がぁぁぁぁ!!」

玲奈 「ふふふ」

この監督さんは、まだ30代の女性。

ドラマの監督になるのが幼い頃からの夢だったらしく、このドラマが初監督作品なのだ。

監督 「またいつか、絶対斑鳩君と玲奈ちゃんとドラマ撮りたい!!」

玲奈 「そうですね。楽しみにしてます!」

『俺も!その頃には、もうちょっと演技力に磨きかけときますねw』

監督 「うん……うぅ………あぁぁ〜!」

『ww』

玲奈 「ww」

監督に抱き着かれながら、私と雪成さんは笑いあった。



数時間後、打ち上げの終わった私達は夜の街を歩いていた。

お互いそんなに家が遠くないので、酔い覚ましも兼ねて歩いて帰る事になったのだ。

私は、雪成さんと並んで歩きながら話をしている。

『それにしても、あの2人どうしよっか…w』

玲奈 「ふふ。あのままにしておいてあげようよ。これからはなかなか会えないんだし」

私達の10メートル程前を歩く男女。

私のマネージャーである茅野しのぶさんと、雪成さんのマネージャーである芝智也さん。

あの2人は、私達に付いて撮影現場に毎日来ていた。

その為意気投合したらしく、お互いに好意を持っていたようなのだ。

そして先ほど、居酒屋から出た時にしのぶさんが大声で告白して、付き合う事になった。

『なかなかお似合いだよな?』

玲奈 「うん、そうだね」

『また俺たちが共演出来たら、あの2人も毎日会えるのになー。頑張らなきゃ』

玲奈 「だね!」

『なんかさ、共演した女優と俳優が付き合ったりとかはよく聞くけど…まさかそのマネージャー同士が付き合うなんて思いもしなかったよw』

そう言って笑う雪成さん。

確かに、ちょっと珍しいかも知れないなぁ。

『付き合うなら、俺と玲奈ちゃんかと思ってたよw』

玲奈 「ふぇ!?」

イタズラっぽくそう言う雪成さん。

驚いて変な声が出ちゃった………。

玲奈 「………」

うん……。

そうなれば…良いんだけどなぁ…。

私と……雪成さんが……………。

でも、私は恋愛禁止の下活動している。

だから、私はこの気持ちをしまっておかなくちゃ。

私が女優としてもっと頑張れば、また雪成さんと一緒に居られるから。

それに、恋愛禁止じゃなくても……私に告白なんて………。

『どしたの?』

玲奈 「……ううん。何でもないよ」

きょとんとした顔を見せる雪成さんに、私は笑顔で返す。

それから10分程歩く。

玲奈 「じゃあ、私達はこっちなので」

『うん。じゃあ、またね』

雪成さん達はまっすぐ進み、私としのぶさんは左に曲がる。

しのぶ 「れーなっ!」

玲奈 「わぁ!びっくりした!」

隣にいたしのぶさんが、急に抱きついて来たのだ。

玲奈 「どうしたんですか?」

しのぶ 「ふふ。玲奈さぁ、斑鳩君の事好きでしょ?」

玲奈 「え……えぇ!?」

しのぶ 「ははは、やっぱり。見てれば分かるってw」

玲奈 「わ……わぁ………」

私は自分でも分かるほどに顔が赤くなっていた。

しのぶ 「気持ち伝えないの?」

玲奈 「え?私は、SKE48だから…恋愛禁止だもん……」

しのぶ 「うーん……それってそんなに重要な事かな?」

玲奈 「え…?」

しのぶ 「自分に嘘付くほうが、辛くない?」

玲奈 「………」

しのぶ 「あー、歩き疲れた。私はちょっとここに座ってるね」

そう言ってしのぶさんはガードレールに座る。

しのぶ 「いってらっしゃい」

玲奈 「………いってきます!」

私は来た道を走って戻る。

まだ別れて5分程。

足の遅い私でも、走れば追い付くかもしれない!

私は全力で走り、信号を渡る。

そして、ようやく雪成さん達に追いついた。

玲奈 「はぁ、はぁ、はぁ…雪成さん!!」

『え?』

私が叫ぶと、雪成さんは少しびっくりした顔で振り返る。

玲奈 「あ、あの…!!」

『?』

玲奈 「はぁ、はぁ…はぁ…」

全力で走った私は、喋れないほどに息が切れていた。

『ちょ、大丈夫?』

雪成さんは私の肩に手を置いて心配そうに見てくれる。

玲奈 「…っ、あの…私……」

『………智也さん、俺ここまでで大丈夫です!先に帰ってください!』

雪成さんがマネージャーさんにそう言うと、察してくれたのか笑顔で頷き歩いて行った。

『…えーと……ゆっくりで、いいよ…?』

玲奈 「………」

走った事で上がった息と、ドキドキで速くなった鼓動を抑えるために胸に手を当てる。

玲奈 「あの……私、雪成さんの事が好きです…大好きです!!」

静かな街に、私の声が響いた。

雪成さんは、驚いた顔をする。

『……あ、ありがとう…。ちょっと驚いたけど、嬉しいよ』

笑顔でそう言ってくれる。

玲奈 「あの……すぐにじゃなくて…私がSKE48を卒業して、女優として活躍出来たら……あの…えぇぇと……」

『…………頑張って』

なかなか言えないでいる私を、雪成さんは笑顔で応援してくれる。

これは、自惚れても……良いのかな…?

玲奈 「…私と……つ、付き合ってくららい!!!」

『………』

………。

ま、間違えた!!

玲奈 「いや、あの、えぇと」

『ぷっ…あはははは!!』

私があたふたしていると、雪成さんが笑い出した。

あぅ……恥ずかしい…。

『玲奈ちゃんでも、緊張すると噛むんだねw』

玲奈 「わ、笑わないで…!」

『ごめんごめんw』

そう謝ってはいるものの、まだ少し笑っている。

『あー。うん。俺も、玲奈ちゃんの事大好きだよ』

玲奈 「………え?」

『俺も!大好きだぁぁ!!』

玲奈 「っ!?」

静かな街に、雪成さんの声が大きく響く。

『だから…俺と付き合ってください』

玲奈 「……はい!」

それから私達は、夜が明けるまで話し込んだ。

バス停にある椅子に座って、手を繋ぎながら。

まわりに誰もいない、車すらも通っていないこの時間。

この時間が、私に魔法がかかる、シンデレラで居られる時間だから。






story end
 

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