短いお話

□夕陽に願いを。 さや姉夢
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例えば、2組の夫婦がいるとする。

その2組の夫婦は凄く仲良しで、学生時代からの友人。

その2組にほとんど同時に子供が産まれたらどうなるか。

そう、所謂、幼馴染である。

俺には、幼馴染と呼べる女の子が1人いる。

その子はすっげー綺麗で、でも可愛くもあって……っ…そんな事はどうでもいい。

幼馴染の男女といったら、連想するものは…ひとつだけ。

そう、恋人である。

同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校、同じ高校。

絵に描いたような幼馴染を繰り広げた俺たちは、高2の夏に付き合いだした。

もう付き合って4年になる。

他の幼馴染とは違うところが…ひとつだけある。

俺たちの関係は、誰にも知られちゃいけないって事。


「雪成、さっきから何をブツブツ言っとるん?」

『別に、何でもないよ』

そう言って優しく頭を撫でると、すこしくすぐったそうに微笑む。

俺が借りてるこの部屋のソファで、ちょこんと隣に座っている彼女。

名前は、山本彩。

そう、皆が知ってるさや姉だよ。

『明日は仕事?』

「それがな、ロケいく予定やってんけど、雪で中止になってん」

『そうなの?』

「うん。せやから、明日一日休みや」

『ふーん、そっか』

そう言ってリモコンを手に取り、チャンネルを変えようとすると、リモコンを奪い取られた。

『???』

彩を見ると、少しムスッとした顔をしていた。

「ふーん、そっか〜ちゃうやろ!たまにしか会えへん彼女が1日休みやって言うてんねんで?」

『お、おぅ…』

「……………もう知らん」

あーあ、拗ねちゃった。

どうしよ。

急だから何処行くとか、何も考えられませんね。

『えーと…明日さ、京都辺りまでドライブ行く?』

そう聞くと、背を向けたまま

「…ほんま?」

と聞いてきた。

はぁ…めっちゃ可愛いな、ちくしょーめ。

でも、テレビだとこんなじゃないんだよなー。

『どこか寺でも行こうよ。それで、美味しいものでも食べて来よ?』

「うんっ!」

こっちを向いた彩は、満面の笑みだった。

「色々いこな?」

『そだね』

その後俺たちは、次の日に備えて早めに寝た。



翌朝、俺は彩に起こされた。

「はよ起き!」

『んん…今何時…』

「7時や」

え、早くね?

『もうちょっと寝かせて…』

「あかん、今日は丸一日遊ぶんや」

そう言って俺にのしかかってくる。

「なぁ?はよ起きて?」

『うぅ…分かったから降りろー』

「よしよし」

俺の上から降りた彩を見ると…もう既に支度を済ませていた。

『え、もう準備出来てるの?』

「出来てるで」

『ふぅん…』

「なに?」

『いや、準備終わるまで起こさないでいてくれたんだね』

「え?あ、いや、そうゆう訳やないねん…ただ、あまりにもはやいとな、遊び行っても店開いてへんし」

そう言ってお手洗いに行った彩は、ちょっと顔が赤いように見えた。

それから俺は着替え、30分後には家を出た。

半年前に無理して買った、中古の車で京都まで。

『やっぱり清水寺とか行きたいよなー』

「せやなぁ。何個か回ろな?」

『うん。そだね』

高速に乗り、途中でSAに寄って飲み物を買ったりしながら1時間ほど車を走らせると、目的地である京都市に着いた。

車はコインパーキングに止めて、ここからは歩いて行く。

『日差し強いから、焼けちゃうかもよ?』

「大丈夫、日焼け止め塗ったから」

『そっか、じゃあ行こー』

そう言って歩き出す俺を、小走りに追いかけて来た彩は、俺の左手を握ってきた。

「手、繋いでもええ?」

『勿論、いいよ。いこ?』

「うん!」

『おれ実は京都来るの初めてなんだよねー』

「そうなん?」

『うん。だからとりあえずさ、ちょっとした地図買おう』

「そしたら迷わんですむもんな」

『そこのコンビニに売ってるかな?』

「観光地やし、売ってるんちゃう?」

それから俺たちはコンビニで地図を買った。

地図を見ながら、東寺、西本願寺、二条城や下鴨神社など、色々巡った。

『そろそろご飯にする?もうどこも空いてるでしょ』

「せやな、何食べる?」

『うーん…なにがいいかなぁ…彩は何か食べたいものないの?』

「んー…やっぱり和食がええよなぁ…どこかええとこあるかな」

『あ、そこにある花水庵って所良さそうじゃない?』

「わ、なんか良さそう!」

『よし、行ってみよっか』

中に入り、料理を注文した。

『どれも美味しそうで悩んじゃった』

「なぁ〜。私のちょっとあげるから、雪成のもちょっとちょうだいな?」

『うん』

[お待たせいたしました]

料理が来て、俺たちの前に置かれていく。

『めっちゃうまそう』

[ほんま、やっぱり日本人は和食やで]

『だな。よし、いただきます!』

「いただきます」

俺たちは、お互い別の物を頼んだので、それを交換して食べようといった訳で…。

「雪成、これめっちゃ美味しいで。ちょっと食べてみ?はい、あーん」

『ぁ…えっと…』

「あれ、苦手やったっけ?」

『いや、好きだよ…いただきます…』

うわぁぁぁぁぁぁ…めっちゃはずい…。

「どう?」

『お、美味しいよ』

「やろ?」

別に、初めてって訳じゃないけど…こうやって、外食した時にはやった事無かったから…。

「雪成のそれも、ちょっとちょうだい?」

そう言って口を開ける彩。

んー、俺からやるのは…初めて…。

『お、おぅ…ほれ、あーん…』

一口分箸でとり、彩の口に持っていく。

パクッと食べた彩は、嬉しそうな顔で 「美味しい」と言っていた。

なんだこれ!

めっちゃ幸せ!

「このデザートの和菓子、めっちゃ綺麗やな」

『彩は和菓子好きだもんな』

「和菓子は目でも楽しめる一番の食べ物やと思うわ」

『そうだな』

デザートを食べ終えた俺たちは、お茶を飲んで店を出ることにした。

「あ、ここは私に払わせて?」

そう言って伝票を持っていく彩。

『だーめ。こうゆうのは男に任せるものなの』

「でも、そんな高くないしさ、日頃のお礼もかねてな?」

『いーやーだ』

そう言って彩から伝票を取る。

『こんな時くらい、かっこつけさせてよ?』

そう言ってレジに向かった。

「そんなんせんでも…いつも、かっこいいのに…」

『なんか言った?』

「ううん、ごちそうさま」

『いえいえ』

店を出て、手を繋ごうとすると、彩から腕を組んできた。

「腕、組んでもええ?」

『っ…おう…』

やべ、めっちゃドキドキした…。

そんな上目遣いで見られたら、断れないって。

まぁ、断る気なんて無かったけどさ。

それから俺たちは、また歩いて寺社巡りをした。

南禅寺などを廻り、ずっと行きたかった清水寺へ。

『あー、階段すげーきつい…』

「めっちゃ登ったなぁ…」

『やっと着いたぁ』

「さっそく、清水の舞台行こか」

『そだね。ん?あれなんだろ』

「どれ?」

『ほら、これ。隋求堂 胎内めぐりだって』

「何すんねんやろ?」

『なんだろ…やってみる?』

「何事もチャレンジや」

こうして、隋求堂 胎内めぐりという物をやる事になった。

[胎内めぐりをご希望ですか?]

『はい。2人なんですけど』

[では、簡単にご説明させて頂きますね。隋求堂 胎内めぐりとは、ご本尊の大隋求菩薩の胎内を巡って、仏様の真下に入り、もう一度生まれ変わるという経験が出来るのです。仏様の真下でお願い事をして頂くと、仏様が叶えてくださいます]

「へー」

[こちらの階段を下って胎内へ入って行ってください。中は本当の暗闇なので、左手で壁に伝ってる数珠をつかんで歩いてくださいね]

『わかりました。いこ?』

「うん」

階段を下って行くと、真っ暗だった。

本当の暗闇。

何も見えない。

『彩、大丈夫?』

「だ、大丈夫やけど…怖い…雪成の服掴んでもええ?」

『うん、いいよ』

真っ暗な階段を降りきった所が、仏様の真下。

『ここで願い事するんだって』

「ほな、願い事しよか」

『うん』

願い事か…。

やっぱり…たったひとつ、願いが叶うんだったら、俺は…。

願い事を終えた俺たちは、また真っ暗な階段を登り、外に出た。

『わ、めっちゃ眩しい』

「ほんま怖かった…」

『真っ暗だもんな』

「でも、雪成がおるの分かってたから、平気やった」

『そ、そっか』

彩は不意にこうやって、ドキッとするような事を言ってくる。

『じゃあ、清水の舞台まで行こっか』

「うん」

胎内めぐりを終えて、清水の舞台まで歩く。


『すっげー綺麗』

「ほんまや…めっちゃ綺麗」

時刻はもう夕方。

清水の舞台から見た空は、綺麗なオレンジ色だった。

『こんな綺麗な夕陽、初めて見たかも』

「私も、初めてや」

少し無言になり、ずっと夕陽を見ていた。

『ねぇ、なにお願い事したの?』

「えー、それ言ったらあかんのとちゃう?」

『そうかな?大丈夫だと思うよ?』

「うーん…じゃあ、雪成から言って?」

『え…俺は、ほら、内緒』

「そんなんズルいわー、私だけ言うなんて」

『うーん…じゃあ一緒に言う?』

「それなら、ええけど…裏切りはなしやで?」

『ふふ、大丈夫だよ』

「じゃあ…せーのっ」

何かひとつ。

たったひとつだけ願い事が叶うのなら。

俺はこう願う。

『彩と』

「雪成と」


『 「ずっと一緒にいられますように」』





story end

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