46の短いお話。

□裏返し。
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『うん、昨日はありがとね。 ふふ、そっか。 また今度行こうね。 うん、バイバイ』


志田 「朝っぱらから誰と電話?」


『えーと、由依ちゃん…だったかな? 昨日たまたま街で見かけた子。 真面目そうで可愛かったよ』


志田 「へ〜」


『今年の一年に可愛い子いるかな〜』


志田 「んー、どうだろ。 当たり年なら良いけど」


2人はそんな事を話しながら校門をくぐる。


2人はこの学校切っての、いわばプレイボーイ。


特定の彼女を作らず遊び歩いて居る2人なのだ。


『とりあえず、暫くは品定めだな〜』


志田 「悪い言い方w」


『あははw おっ、と…』


「っ」


校内へ入り、教室へと繋がる階段で1人の生徒とぶつかってしまった。


『ごめん、大丈夫?』


「あ、はい。 すみません」


『っ…君、1年生?』


「そうですけど…」


『そっか。 俺は3年の雪平伊織です。 よろしくね』


「えっと、渡辺理佐です」





『やば、あの子めっちゃ可愛かったんだけど』


志田 「ありゃー今年1かもね」


『連絡先聞けばよかった』


志田 「すぐにどっか行っちゃったもんね」


『会えないかな〜』


伊織がそう呟いた時、3年の教室の前を歩く2人組みを見つけた。


『……神は俺に味方したみたい』


志田 「へ?」


『ちょっと行ってくる』


そう言って教室を出た伊織。


『ねぇ』


理佐 「?」


織田 「理佐、知り合い?」


理佐 「えっと、3年の雪平さん」


『よそよそしいな〜 折角だし、名前で呼んでよ』


理佐 「え…」


『理佐ちゃん、連絡先教えてくれないかな? さっき聞こうとしたんだけど聞きそびれちゃって』


理佐 「えっ、と…」


『理佐ちゃん凄く可愛いし。 もし良かったら今度遊びに行こうよ。 色々連れてってあげる』


理佐 「………」


『どうかな?』


理佐 「………台詞じゃなくて、自分の言葉で話してください」


『………………』


理佐 「失礼します」


織田 「え、ちょ、理佐!? すみませんっ!」


頭を下げて理佐を追っていった織田。


志田 「振られてやんの」


『………ますます気に入った。 絶対オトす』


志田 「ふふw 今まで伊織の誘い断った子なんて居たっけ?」


『居ねえよ。 だから、何が何でもオトす。 あの子可愛すぎ』


志田 「ふふw」




Risa side


それから雪平さんは、暇さえあれば1年の教室へと来ていた。


この学校の全員が認める、学校1のイケメンの雪平さんが教室に来るだけでちょっとパニックに。


そんな周りを一切気にする事なく、雪平さんは私の元へ。


『おはよー理佐ちゃん』


理佐 「………おはようございます」


『今日の1限目は?』


理佐 「外語ですね」


『へ〜 1年は英語かな?』


理佐 「そうですね」


あしらうってわけじゃないけど、少し冷たくそう返す。


でも、雪平さんはそんな事は気にしないみたい。


『I like you much more than you think.』


理佐 「えっと……?」


『ふふ、もう授業始まるし、また来るね』


そう言って帰っていく雪平さん。


あんなにチャラいのに、英語喋ってちょっと頭良いぶるんだ。


理佐 「……………」


ねる 「あなたが思っている以上にあなたが好き」


理佐 「え?」


ねる 「さっきの英語の意味だよ」


理佐 「………………」


ねる 「そんな事すんなり言っちゃうなんて、やっぱりイケメンだね」


そんなの、知らないもん。





次の日も。


『理佐ちゃんやっほー』


理佐 「……こんにちは」


『お昼食べてるの?』


理佐 「はい……(もぐもぐ」


お母さんに作ってもらったお弁当を食べる私を、覗き込む様に見てくる。


ちょっと食べ難いけど…でも、気にしてない風を装って食べ続ける。


『じゃあ、これあげるよ』


理佐 「プリン…?」


『このプリン美味しいから理佐ちゃんに食べて欲しくって』


理佐 「ありがとう、ございます」


別にそんなに食べたくないけど、折角だから貰っておこう。


『ふふ、じゃあね』


雪平さんが居なくなって、こっちを見た食いしん坊の長沢菜々香がはしゃぎだした。


長沢 「それ、琴吹屋のプリン…!」


理佐 「有名なの?」


長沢 「1日8個限定で、一個800円もするんだよ!」


理佐 「高い……ん、美味しい」






さらに次の日も。


『あれ、理佐ちゃんだ』


理佐 「え…あ、どうして…」


私が行ったのは近所の喫茶店兼コーヒー豆のお店。


特別好きって訳じゃないんだけど、コーヒー豆が欲しくって入ったお店に雪平さんがエプロンを着けて居た。


『俺、ここでバイトしんの。 もしかして、会いに来てくれたの?』


理佐 「バイトしてるって知らなかったし…」


『そっか。 じゃあ、ここでバイトしてるって知った事だし、毎日来てもいいよ?』


理佐 「そんなに毎日コーヒー豆必要ないです」


『じゃあ飲みに来てよ。 俺が毎日コーヒー淹れてあげようか?』


理佐 「大丈夫です」


『もう、相変わらずつれないな〜』





そしてさらに次の日も。


『理佐ちゃーん!頑張れー!』


体育の授業で100メートル走の順番を待っていると、教室の窓から手を振ってる雪平さんが見える。


理佐 「っ…」


織田 「理佐の応援団じゃんw」


理佐 「んー……なんなんだろう」


なんであんな事してるんだろう。


正直、凄く恥ずかしい。


織田 「ふふw 手振り返さないの?」


理佐 「えー…」


織田 「ほら、まだ振ってるよ?」


『理佐ちゃ〜ん』


理佐 「…………いい」


織田 「あららw」




その次の日も。


『ねぇ理佐ちゃん、この前のプリン美味しかった?』


理佐 「プリンは、美味しかったです」


『じゃあ、今日はこれ。 プリンよりも美味しいぞ〜?』


そう言って渡して来たのは、小さな袋に入ったコロッケ。


理佐 「………プリンとコロッケって、美味しさを比べる物ですか?」


『そうですよ』


理佐 「………」


『例えば、理佐ちゃんがポッキーで奈々ちゃんがトッポだったらどう?』


織田 「なんですかその例えw って言うか、私の名前も覚えてくれてたんですね!」


『当たり前じゃん、可愛い子の名前はしっかり覚えられるんだ』


織田 「いやいやいやいやいやいやいやいや//w」


『いやいや多いなw』


……ほらね、誰にでも可愛いとか言って…やっぱり、そう言うのって私にだけじゃないんじゃん。


チャラい。


理佐 「………私、おトイレ行ってくる」


『んー、はやく帰ってきてねー』





そんなことが続き、はや1ヶ月。


1人で夕方の街へと買い物にでた私。


散財しない様、しっかりと財布と相談しながらお買い物。


周りも暗くなってきて、お買い物も終わったし帰る事に。


最寄りの駅まで歩いていくと、向かいからこの1ヶ月で見慣れた顔が歩いて来た。


『ふふ、麻衣さん相変わらず面白いなぁ』


麻衣 「そう? 伊織程じゃないと思うけど」


『あははw あれ?』


理佐 「っ………」


10メートル程先に見える慣れ親しんだ顔。


私が気付くのとほぼ同時にその人も私に気が付いたみたい。


その人と目があったとき、私は逃げ出した。


何故かは分からない。


その人が笑顔だったかも知れない。


その人が女の人と一緒に居たからかも知れない。


その人の隣に居た女の人が綺麗だったからかも知れない。


如何してかは分からないけど、自然と横道に逃げてしまった。


聞き慣れた声が、私の名前を呼ぶのが聞こえたけど、聞こえないふりをした。


時間にしたら、2分か3分。


長くても5分くらい逃げた。


追ってきてる訳じゃないけど、逃げるって表現が今の私には似合ってた。


逃げて来た先は、私が来たことのない場所。


理佐 「………はぁ…ここ、どこだろう…」


周りを見ても、特に知ってる建物も見えない。


もう、いや。


携帯でアプリを起動して、今居る場所と駅への道を調べようと、バックから携帯を取り出す。


しかし、手から携帯が滑り落ちてしまった。


理佐 「はぁ……最悪…」


携帯を拾おうとすると、それを私より先に拾ってくれた人が。


「こんばんは」


理佐 「あ…こんばんは…?」


「1人ですか?」


理佐 「え? あ、いや……」


「折角だし、ご飯とかどうかな? 俺良い所知ってるから行こうよ」


そう言って手を引っ張ってくる。


理佐 「や、やめてください」


「良いじゃん、はやく行こ?」


理佐 「い、いや……」


無理矢理引っ張られそうになった時、いつもの声がいつもの様に私の名前を呼んでくれた。


『理佐ちゃん』


理佐 「っ、雪平さん…」


『お兄さんごめんね。 この子、俺のツレだからさ。 ほか、当たってくれる?』


「はぁ?」


『その手離してもらえるかな? この子の手握って良いの俺だけなんだ』


そう言って私の手を掴んでる人の手首を掴んで離してくれる。


「ちっ、ツレがいる女がこんな場所来てんじゃねえよ」


そう呟いて男の人は去っていった。


『ふふ、理佐ちゃん見っけ』


理佐 「どうして……」


『だって、目があってすぐに道曲がっちゃったし、曲がっていった方もアレだったし』


理佐 「どういう…」


『ここ、ナンパ待ちのスポット。 しかも、直ホテル行くような女の子達ばっかりの場所なんだ』


理佐 「え……あ、だからさっき…」


『うん。ツレが居る女がこんな場所来るなって。 まぁ、知らない理佐ちゃんにとっては関係ない事だよ』


理佐 「………」


『怖くなかった?』


そう聞かれて、一気に怖さが蘇って来た。


雪平さんが来てくれなかったら。


どうなってたのか分からない。


理佐 「っ……こわ、かったです…」


『そうだよね。 ごめん』


理佐 「雪平さんは、悪くない、です……」


『ほら、また苗字で呼ぶし。 そろそろ名前で呼んで欲しいんだけどなぁ』


理佐 「………伊織、さん…」


『うん。 ほら、もう震え止まったよ』


たしかに、さっきまでの手の震えが収まっていた。


『はやく帰ろう? 駅まで行こう』


そう言って歩き出す伊織さん。


でも………………。


理佐 「……さっきの、人はいいんですか…?」


『え? あの男?』


理佐 「じゃなくて………一緒に居た、女の人…」


『あー、麻衣さんの事か』


理佐 「麻衣さん…」


『あの人は白石麻衣。 俺の腹違いの姉貴だよ』


理佐 「え…お姉さん…?」


『うん。 血の繋がりは、半分かな?』


理佐 「お姉さん……」


『あれ……あれあれ?』


理佐 「?」


『もしかして…嫉妬してくれた?』


理佐 「っ……そんなんじゃないです」


『嘘だ〜? 嫉妬してくれたんでしょ? 』


理佐 「………」


多分、その通りなんだと思う。


いつも私を呼んでくれてる声が、違う人の名前を呼んでいた。


私に見せてくれてる笑顔を、違う人の前でも見せていた。


チャラくて、別に好きとかじゃないんだろうけど…でも、少し……寂しかったのは、本当。


『……………信じて貰えるか分からないけど、俺、本気だよ』


理佐 「え…」


『俺の噂…っていうか、多分全部本当の事なんだろうけど、聞いてるでしょ?』


理佐 「………(こくん」


『そんな俺の言葉だから説得力ないかも知れないけど…そんな俺の言葉だからこそ、説得力がある気がする。 理佐ちゃんの事、大好きだよ』


いつもは、この人の軽い言葉に少し嫌な気持ちがあったけど。


でも、何故か今日は嫌な気はしなかった。


それは、伊織さんの本気が伝わって来たからだと思う。


学校で、女子生徒に頭を下げて謝ってる姿を見たからかもしれない。


『俺、本気の恋を知ったんだ。ごめんね、もう会えない』


そう言っていたのを聞いた。


頬を叩かれてるのも、見てしまった。


周りの子も、そういうシーンを見た事があると言っていた。


あれが、もし本当に私の為なのなら、おざなりにはできなかった。


理佐 「………私、見た目ほどクールじゃないです」


『だと思ってる』


理佐 「だから…浮気とかされたら、普通に悲しいです」


『うん』


理佐 「でも……初めてあった日みたいな台詞じゃなくて、自分の言葉で言ってくれて嬉しかったです…」


『………』


理佐 「私も……好きになっても、いいですか…?」


『大好きになって貰えるように、頑張る』


理佐 「………ふふ、欲張りですね」


『かな?』


理佐 「はい。 でも、そんの欲張りなら、嬉しいです」


『っ……可愛い』


理佐 「私以外に言ったら、嫌ですよ」


『うん、分かってる』


そう言って、伊織さんは私の唇に優しく唇を当てて来た。


私にとってのはじめてのキス。


あなたと私の、はじめてのキス。
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