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□愛してるって言わせてくれるなら6
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「おまえん家でやるなら早く言えよ」

ようやく静かになった店先のカウンターに座り、山本の背に愚痴をこぼす。こぽこぽと音がして、振り向いた山本に湯飲みを差し出された。

「熱いから気をつけてな」

注意を沿え手を拭きながら「言ったら獄寺、親父とくつろいじゃうだろ?」と言う。
心なしか、その表情に呆れが混じっているような気がして、オレは冗談じゃねぇ、と一先ず吐き捨ててからお茶を啜った。

「あいつらがケーキ食いたいからわざわざあそこで待ち合わせしたんだろ? しかも無理矢理押し込みやがってあのアホ女…!」

それこそ、すぐさま忘れてしまいたいような状況だったことを思い出して、堪らず舌を打つ。
甘いものを食べて脳を元気にしないから獄寺さんはいつもそういらいらしてるんですよ云々、と言い募られ、気付いたら店の中にいた上に、後ろから京子のどれがいい?これも美味しいよ、獄寺くんは何が好き?云々の質問攻めにあい、最終的に店の店員にかわいいから!とおまけまで押し付けらる始末だったのだ。

ははっ、と笑い声がして、反射的に顔を上げる。

「何笑ってやがる」
「いや……面白かったよな」

後ろで突っ立ってたおまえは或はそうかもしれないけどな。睨むようにしながら湯飲みを置く。

「でも、おまけがクッキーで残念だったな。食えないんだろ?」
「…欲しいならやるけど」
「あー捨てるの勿体ないし貰おうかな」

屈託なく笑う山本にどうも調子が狂う。女子二人がいるときは笑ってたが、そもそもコイツ、なんか…怒ってたんじゃねぇの?
そうだ。言ってもまた忘れるんじゃないか、と山本は、怒っていたのだ。

しかし、表情だけ見るに、もうすっかりいつもの調子で。

「ま、これでツナのケーキも決まったし…スケジュールもばっちりだし、獄寺も文句ないだろ?」
「…まあな」

胡乱な目つきをしていたのか、話題を変えるためか求められた同意に相槌を返し、ついでに山本の後ろにある壁時計を窺う。
二人が帰るときに一緒に店を出なかったのは、帰り道でまで騒がしいやりとりをしたくなかったからだが、もう、会うことはないだろう。

山本の様子は気になるが、今日は帰って立て直した方がいいように思う。すでにこちらからの追求は聞き入れないようだし、それなら長居するだけ気まずいに決まっている。

明日になれば10代目も帰ってくる予定だ。相談してみるのもいいかもしれない。
いまだってこんなにぎこちないのに、と心中呟きながら湯飲みをカウンターに戻す。と、その瞬間を見計らったように、山本が「そうだ」と声を上げた。

はっとしてしまって、不自然に動作が止まる。目を向けると、山本は息を吸った。

「ちょっと聞いて欲しい話が…あるんだけど」
「…話?」

反芻したものの、予想はつく。
さっき笑っていたのは、今日、この場で決着をつけると決めていたからなのかもしれない。それなら、心の準備が出来ていないのはオレの方だけで。少しずるくないか?と考えて、最初に忘れたのは自分だったことを思い出す。

そもそも。なにかを忘れたから、オレはここにいるのだ。忘れたのが始まりなのだから、文句を言う筋合いはない。
ただ、一因はおまえにあるんだろうと、いっそ清々しい山本を睨みつけると。

山本は「……やっぱりずるいよな」と呟いた。





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