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□信号が赤だったのは
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散々待たせて、連絡すら忘れて。慌てて教室に戻ると、そこに、まだ獄寺がいた。
窓際一番前の席に座って携帯を開いている彼が、小さく「まだかよ」と呟く。いつもの刺のあるそれより勢いが無くて、あれ、と思った。
校庭に目を向けた獄寺に静かに近づいて、肩を叩く。びくりとはねた身体はすぐにこちらを向いた。

「てめぇ……」

多分、驚かされたのが気に入らないんだな。微かに赤くなった顔に笑うと、獄寺はムッとしたように眉をさらによせてオレの胸倉を勢いよく掴んだ。

「何笑ってんだよ」
「や、獄寺、待っててくれたんだなーと思って」
「………」

嬉しいのな、と言った途端、掴まれていたそこがぱっと開放される。
こんな時間まで待っていたことを後悔するようにオレと時計を見て、それから「マグロ目当てだ」と嘘吹く獄寺が愛しい。

でも、そもそもの口実はたしかにマグロだったから。ほんと可愛いのなーと思うに留めて、もう一度お礼を言う。獄寺はまんざらでもない表情で首元をさすると、手近にあった自身の鞄をオレに向かってなげた。
うわ、わ。咄嗟に受け取ったそれは、やけに重い。持ってけってことなんだろうけど、これなに入ってんの?

「明日、小テストだろ」

教科書とかどうせおまえ持って帰らないだろ、と続く。

「…もしかして教えてくれんの?」
「飯食わしてもらってそのまま帰るわけにもいかねーからな」
「ははっ…そっか! ありがとな!」

親父はそんなこと気にしない。ただ、きっと獄寺の中ではそれじゃあだめなんだな。なんだか嬉しくなって堪らず笑うオレに、獄寺は呆れたように口の端をあげた。




学校を出て、オレは獄寺の鞄を抱えて獄寺は手ぶらでずいぶん暗くなってしまった道を歩く。見知ったところとはいえ、夜になると少し雰囲気が変わる。ついくせで探索でもするように辺りをみまわすオレに、今度は本気で呆れたのか背後から溜息が届いた。

「ばーか」

振り向いた先、大好きな獄寺がいて。
…あーほんと。ほんとに。
どうやったら獄寺は、オレのこと好きになってくれるんだろ。

「なあなあ獄寺」
「あ? …遊んでるひまはねーぞ」
「違う違う。あのさ…」
「?」
「……この間の返事、そろそろ聞かせてくんね?」
「そ、れは…」
「一週間とは言ったけど…待てないのな。なあ、獄寺」
「……知らね」

それはあんまりじゃね?!あからさまに顔色が変わってたのか、獄寺が一歩後退りする。けど、オレは獄寺の鞄を持ってっから。わざとぎゅうと抱きしめて足を早める。
なっ、と息を飲む声がした。

「返せよ!」
「これから寿司食って勉強だろ、だから返さないのな」

これさえ返さなければ獄寺は家の鍵もストックのタバコもないわけで、つまりオレの優性。そのまま走りだせば、いかにも全力疾走の彼がオレを抜いて、それからさらに先を行った。
あ、れ?もしかして鞄なんかなくたって平気、とか?瞬間ぼーっとしてしまったオレをよそ目に走る獄寺、その姿は次の角で消えた。






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