ここが俺の帰る場所

□その少年の夢
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フィオーレ北部に位置する小さな街。
それなりに田舎で、隣街に行こうとすると馬車で片道2時間かかるような街。
そんな街で、彼――ビックスローは暮らしていた。

「ビク、晩ご飯できたわよー」
「はーい」

当時の彼は人見知りで大人しく、一人遊びが好きな子供だった。
特に人形遊びが大好きで、父に「母さんより女の子らしいな」と苦笑される程度にはよく遊んでいた。

「今日のご飯何ー?」
「カレーライスよー」
「やった!」

年相応の無邪気な笑顔に、黒い人型はまだ無い。
母はその額に軽くキスを落とし、頭を撫でた。

「お腹空いたでしょ。ほら、早く手洗って来ちゃいなさい」
「うんっ!」

ぱたぱたと洗面所へ駆ける小さな背を見送って、母は微笑んだ。眼鏡の奥の、少し鋭い瞳は優しさに満ちている。

「あの子ももう5歳か…早いわねぇ……」」
「何か言った?」
「ううん、何でも」

洗面所からひょこっと顔を出したビックスローが不思議そうな顔をした時、玄関の扉が開く音がした。

「ただいまー」
「あ、お父さんだ!」
「あら、早かったのね」

駆けていくビックスローに続いて、母も玄関に向かう。
そこには、ビックスローと同じ髪色の、背の高い男がいた。

「お父さん、お帰りーっ!」
「おぉ、ビク!ただいま」

彼は、飛びついてきた息子の頭を撫で、笑みを浮かべる。
子供特有の、柔らかな毛質の髪をくしゃくしゃとかき混ぜながら、その目を妻へと向ける。

「お帰りなさい。今度の仕事は早かったのね」
「あぁ。まさか日帰りで終えれるとは思わなかったけどな」
「よかったじゃない」

そう微笑む母の胸元、ちょうど右の鎖骨の辺りには、紋章がある。
そしてそれは、父の左脇腹にも。
その紋章は、2人が所属する魔導士ギルドの紋章だった。
 
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