あんたのオモチャ
□届かぬ想い
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「いらっしゃい。何か飲む?…って、言っても余りの酒しか無いけど」
「こんな陽が高いのに酒は飲みません」
カウンターの中で神崎が棚の整理をしている。俺はカウンター席に鞄を置きジャケットを脱ぐと鞄に掛けた。
「冗談だって。座って、コーヒー出すよ」
湯を沸かし始め不慣れに食器棚を開いては物色する神崎に自分も手伝おうと中に入って食器棚からカップを出す。
「話ってなんですか?」
「いや、一昨日この店を貸す契約しに行ったのだけどさ。相手が昔馴染みの友人だったわけ。それで話が盛り上がって…何するの?って、聞いたら居酒屋するらしくて…」
「…俺に関係ないなら帰りますよ?」
腕捲くりして手を洗ったが神崎の話に付き合うほど暇をしていないと首を傾げると、神崎は苦笑して俺の肩をぽんと叩いた。
「待った、本題はここから。従業員をこれから探すらしいのだけど、料理出来る子知らないって尋ねられて。君の顔が浮かんだわけ」
「へ…」
「君の事話したら、是非とも面接したいって」
ウインクしては微笑む神崎に幸運舞い降りた様な滲み出る笑顔を向けると髪をくしゃりと撫でられた。
「本当ですか?」
「ああ、住居も考慮してくれるらしいよ。いい話が無いなら一度面接してみる?」
「はい!」
沸いたヤカンの湯でカップを温めてから一旦湯を捨てドリップを立ててはお湯を注ぐ。香り高い匂いが鼻腔を擽る。いい話の席だから気分も晴れやかだ。