あんたのオモチャ
□届かぬ想い
1ページ/9ページ
(朝食…無駄になった)
ふたり分のサラダにトーストを見ては溜息が漏れる。処分するのも勿体無いので皿に盛り付けてはテーブルに並べ、何気なしに新聞の折り込み広告を手に取りぼんやりと眺める。
(仕事探して早くここを出よう)
一緒に居るのは嬉しいが体に毒だと、この一週間で学んだ。友達として付き合えるのなら尚更一定の距離を置かなくては間違いを犯しては取り返しがつかない。
(半分過ちを犯しているのだけど)
コーヒーを一口飲み一息ついた時、俺の携帯が鳴り出した。立ち上がり携帯を取って電話に出る。
「はい」
「あ、俺。分かる?」
軽いタッチの低い聴き慣れた声思い当たるのはあの人しかしない。
「神崎さん?」
「そう、一昨日ぶりだね」
能天気な声…これほどまでに神崎が羨ましいと感じたことはない。
「何か用ですか?」
神崎の口調からしてそう急用ではなさそうだと、携帯を手にしながら食べ終えた食器を重ねキッチンに運び、コーヒーのおかわりを淹れようと湯を沸かす。
「いや、ちょっといい話があるのだけど、今からでも店に来てくれるかな?」
「はぁ…分かりました。今から行きます」
普段の俺なら口で済む要件なら手短にお願いしますと言ってしまいそうなものの、今日はあまりこの部屋にいるのが気まずく出かける事を承諾した。
電話を切ると火を止め戸締りをしてから外出の用意をしようと寝室に行き服を着替え足早に部屋を出た。
繁華街の隅にある一軒の洒落た店舗。住み慣れた二階の住居と離れて二週間足らずなのに懐かしく感じる。
シャッターが半開きでドアが半開きになっておりそこから音楽が聴こえる。俺は「こんにちは」と一声掛けてから中へと入った。