あんたのオモチャ

□弄ばれる唇
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「…いえ、友達の家に間借りしています」

「住居はまだ住んでいて良かったのに」

 やはりと眉を下げ苦笑する神崎に、俺は顔を上げてははっきりと自分の思いを告げる。

「ケジメですから」

 申し訳ない様に答える。俺は返せない借りとか恩とかいうのは苦手だ。今回それで頭を悩ませているから余計に…。なぜ康介の甘い言葉に乗ってしまったのだろう。俺って馬鹿だとつくづく感じる。

「君らしいな」

 そう言って俺の肩に手を置く神崎。この人はバイで俺の性癖も知っている。一度誘われたが公私混同したくないとやんわり断ったこともある。下心がないと思うのだが、人に弱い所を見せるのはこれ以上増やしたくない。

「……」

「俺のところに来ないか?」

 穏やかに俺を見つめる神崎。甘い囁きに戸惑いを感じる。彼の目を見たら今の無様な状況を見透かされ泣いてしまうかもしれない。そう思い視線を逸らし注意を違う方に向ける。すると何か痛いような視線を感じる。

「……あ」

 視線を感じる方を見ると立ち止まり驚いた様子の康介の姿があった。

「あれ?コーじゃないか」

 俺の肩に置いていた手を下ろし、にこやかに康介の方に歩み寄る神崎。康介もそれに対応し笑顔で挨拶をする。

「神崎さん久しぶりです」

 二人は昔馴染みの様に二人は話だす。その会話の間にちらりと此方を見る康介。悪い事をしていたわけではないがちくりと胸が痛む。
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