あんたのオモチャ

□春の雨
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 二畳程度の単身者向けのマンションにしては広いキッチンだが、大の男二人が入れば狭いしむさ苦しい。俺はキッチンの中に入ると康介の背中を押し追い出しオムライスを作るためビニール袋から野菜を取り出し調理を始めた。ここに来て初めて調理をするので勝手が分からなかったが男は度胸ということで何とでもなる。そうでもしなければ毎日の様に弁当や外食ばかりで胃が荒れかねない。
 野菜を洗いながらリビングの方に目をやる。すると、やる事の無くなった康介はリビングのソファーに腰掛けテレビをつけチャンネルをコロコロと変えている。
愛おしい背中…。だが、実らない恋。考えただけで辛く切なくなるだけなので俺は料理することに集中させた。

 俺が康介に拾われたのは先週。勤めていたバーが閉店してしまって職を失い、住み込みだった為に住む家も失った。
康介はその店の常連で、偶然にも店の前でスポーツバックに腰掛け途方にくれている俺を見ては「行くとこ無いなら俺の家に来いよ」と考える事もなく声を掛けてくれた。
康介と言えば女性には不自由しない男で、店によく違う女性を連れてきており、それを見ては心がじりじりと焼けそうな想いを抱いていた。
声を掛けられた時は正直気持ちが舞い上がり抱きつきたかったが冷静になり、なにかの間違いはないだろうと思いつつも俺がゲイだがいいのかと馬鹿正直にカミングアウトしてしまったのだ。少し驚きつつも受け入れてくれた康介…。

(俺も馬鹿だが康介も馬鹿だ)

整った顔立ち、清潔感ある短髪、引き締まった身体、胸に響く低い声のトーン…女ウケするだけあり上手い話術にさりげない気配りのある康介。俺にとってストライクゾーンの男だ。ずっとカウンターの反対側で康介を見ていた。

(見ているだけで幸せだったのに)

 拾われ家に入れてもらったと思ったら第一声が「男で勃つなら見せてよ」ときたものだ。

(ノーマルのくせにゲイの俺を遊んで楽しんでやがる)

 そして俺は言ったんだ…「好きな奴の前でなきゃ勃たねーよ」と。そうしたら、康介は負けず嫌いなのか「惚れさせて目の前で勃たせて見届けてやるよ」と言っては挑発する様になってしまった。
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